飃の啼く…最終章(後編)-14
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「やっ 繋が たぜ!」
水鏡の向こうから聞こえた声は、紛れもなくあの人間のものだった。人間の声を聞いてこれほど嬉しいと思ったことは、油良にはなかった。
「無事なのか?」
話しかける油良に、鏡の向こうから驚くべき答えが返ってきた。
「無事だ ど、今、敵の本陣に んだ。時間 無い、良く聞 て…」
敵の本陣。どおり繋がらないはずだ。油良は意識を集中して、水鏡からの声に耳を傾けた。
「 陣の近 で大規模な戦 が起こっ る。でも黷 、焦るど ろかもっと近づ って。何か秘密兵 が るみ なんだ 、皆に注意 よう 伝…!」
そこで、通信は途絶えた。油良は胸騒ぎを覚え、狗族の中で水鏡の水を持つものとどうにかして交信できないか考えをめぐらせた。しかし、今向こうでは激戦の最中だろう。鏡に向って話しかけられるものなど居ますまい。油良は頭を抱えるしか術がなかった。
その時、油良の水鏡に飛び込んできた声があった。
「もし!誰かそこに居らぬか!」
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熾烈な戦いを、ただ見ているだけというのは心苦しかった。しかし、風炎には刀持て戦に加わるよりも重要な役目が課せられている。その役目が何かは、例によって青嵐は明らかにしていなかった。お前にはお前の役目があるんだと、その言葉だけが、風炎に下された命令だった。
ほとんど死んでしまったかと思っていた戦士たちが、何処からともなく集結する様は圧巻だった。
今、八条さくらと飃、そしてもう一つの影は、賢明にビルに向って突き進んでいる。その周りを取り囲むように、狗族たちが澱みを相手に戦っていた。橋脚からよじ登ろうとする澱みは、海坊主や船幽霊、海座頭が。空から襲おうとするものは、烏天狗や雪妖が墜としていた。
今、彼らは橋の半分のところまでやってきた。澱みは数を増やしてはいるものの、まるで紙くずのように切り捨てられていた。
その時、風炎はすぐ近くで、閃光と、ものすごい雷鳴と、地響きを感じた。
―こんなときに落雷か?
どうやら雷は、隣のビルに落ちたらしい。
彼は身を潜めていたビルの屋上に上がり、慌てて音のしたほうに向った。すると、そこには電気と光を帯びた、小さな獣が立って彼を見上げていた。
「風炎様、でらっしゃいますかっ」
はきはきとした声で、その獣は言葉を口にした。彼が頷くと、獣は言った。
「わたくし、天の龍宮より参りました、雷獣の旭光(きょっこう)と申しますっ」
そして、丁寧にお辞儀をした。
「我が主からの、貴方様に伝言をお届けに参りましたっ!」