冬の観覧車 第二話-7
カフェで笑った。三人で。
家を破壊して、燃やしたから。
それが楽しくて、別に楽しくはなかったのに、僕はそれでも笑った。
人が笑うときというのは一体どういうときなのだろうかと、そんなことを考えながら笑った。
「燃やしちゃって、本当に大丈夫だったの?」一通り事情を聞き、楽しそうに笑い終えたサクラがいう。
「大丈夫だって。な、ジン」
「あ、うん。誰も居なかったしね。それに、そんなに燃え広がらなかったかもしれないし」
「そっか。それならいいけどさ。でも、残念だな、お金」
「砂漠はお預けか」隆二は心から残念そうに言う。
でも、事態は深刻だった。
僕らが、結果的には襲撃した青野家は全焼し、焼け跡から五歳の女の子の遺体が発見された。
名前は、青野美千代。
僕らが留守と思い込んでいた家には、実は五歳の女の子が居て、
でも、一体少女がどこにいたのか、彼女が死んでしまった今となってはそれは分からない。
僕らが青野家を襲撃した昼、母は買い忘れたしらたきを買いに、
近くのスーパーマーケットまで行っていたということだった。
午後からピアノの先生が訪ねることになっていたし、
ひょっとしたら間に合わないかもしれないからというわけで、
青野美千代ちゃんは一人お留守番をしていたのだった。
娘が死ぬのならば、しらたきのないスキヤキを食べるほうがどれだけ幸せだったことだろう。
必要に迫られていないのなら、無理に大金を手にしようと思わないほうが、
僕らは幸せに過ごせたのではないだろうか。
悪いことなんて、もっとちっちゃい事でよかったんじゃないだろうか。
コンビニエンスストアで、ガムを盗むとか。
退屈なら。
日々が平凡ならば。
それを壊さないようにするべきじゃなかったのだろうか。
ともかく、ただ事実として、世界は青野美千代ちゃんという、
ほとんど無名ながら、尊い一つの命を失い、そして僕たちは、世界からそれを奪った。
それでも僕らは生きている。
誰かに甘えることによって得られる退屈に身を委ねながら。