冬の観覧車 第二話-6
一度目は、小学生の頃、母親が隆二の楽しみにしていたプリンを食べてしまったとき。
キレた隆二は、商店街のあらゆるお店のガラスを割りまくったという。
誰にもバレなかったよ。と隆二は言っていたが、
後日、実は一人だけ知っていた奴がいたんだ、と彼は言った。
それは、隣近所に住んでいた、一つ下の男の子さ。
勿論そいつは俺のことは話さなかったよ。ボコボコにして、言ったら殺すと脅したからな。
二度目は、両親が離婚したとき。
中学生の隆二は両親の金をパクって、当時大好きだった女の子と二人でディズニーランドへ行った。
初めてセックスをしたのはそのときだと隆二は言っていた。
そして、三度目は僕がサクラと寝たことを打ち明けたとき。
一週間口を利かなかった。
一週間ぶりに会った隆二の体には、ボディーピアスが七つもつけられていた。
全部安全ピンで開けたんだと言っていた。
結論。隆二はキレると何をしでかすか分からない。
おまけに、なにが彼のその引き金を引いてしまうのか、それも分からない。
その辺、こいつは若干イカれてる。
小学生の頃みたいに暴力的になるときもあれば、意味不明に自分の体を傷つけることもある。
どうやら、今回は暴力的なキレ方みたいだな、と、スタンドでテレビを叩き割る隆二を見ながら僕は思った。
そのさらに十分後、心行くまで破壊活動を楽しんだ隆二は、突然ポケットからジッポオイルを取り出した。
ここで見つけたものなのかもしれない。隆二はそれをソファーの上に撒き散らし始めた。
スメルズ・ライク・ティーン・スピリットをハミングしながら。
そして、ジッポライターで火をつける。ソファーが、ゆっくりと炎に包まれていく。
僕はその様をじっと見ていた。体が動かなかった。
時間の流れが急にスローになったように感じる。
聴覚と、視覚だけがやけに冴えていて、
そのほかの部分、特に思考回路は完全に停止していた。
僕は恐怖に飲まれていた。
隆二と、燃えるソファーと、メチャクチャに破壊された家具たちが、まるで蛇みたいで。
仮にそれが蛇だとしたら、僕は蛙。
恐怖にすっぽりと包まれて、身動き一つできずにいる。
蛇は、自分がキレていた割には冷静で、蛙へ向かって、帰るぞ、と一言言った。
蛙は頷き、そして帰る。