投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

冬の観覧車
【その他 その他小説】

冬の観覧車の最初へ 冬の観覧車 9 冬の観覧車 11 冬の観覧車の最後へ

冬の観覧車 第二話-4

「平和だな」とバスを降りた僕は呟く。眩しい陽光に目を細めて。

「平和だ」

「どの家にする?」

「さあ」

 僕らは肩を並べて道を歩いた。静かだった。人一人歩いていない。

右手に見える二階建ての住宅の主人はサラリーマンで、ちょうど昼休みかもしれないし、

その妻もパートかなんかで留守なのかもしれない。子供たちは学校かも。

「誰も居ないな」僕は立ち並ぶ住宅をきょろきょろと眺めながら言う。

「そっちのほうが好都合じゃん?」

「まーね」

「もう面倒だからさ、インターホン鳴らして、誰も出なかったらそこにしない?」

「あ、隆二。それいいいね。賛成」

 そういうわけで僕らはインターホンを鳴らして歩いた。

立て続けに回った三軒には人がいて、あの、中野さんのお宅はこのへんでしょうか?

 などと適当に訪ねてごまかした。四件目。

ようやく留守の家にぶちあたった。黒鉛色の壁の家で、二階建て。

表札には、青野と書かれている。

「金、あるかな?」

「ま、入ってみようぜ」

「セコムとかねえかな?」僕はちょっと落ち着きなく言う。急に緊張してきた。

「ねえだろ、そんなにでかい家じゃねえし」

「ああ、小便がしてえ」

「後にしろ」うんざりしたように隆二は言う。「それより、さっさと仕事を済まそうぜ。

ルブ・アル・ハリ砂漠が待ってるぜ」

「俺は行く気ねえ」と僕は応える。

 僕らは庭を歩き、辺りからちょうど死角になる場所の窓を見つけ、そこを割ることにした。

僕たちは持参してきた薄いゴムの手袋をはめ、窓にガムテープをぺたぺたと貼り付け、

それを隆二がケンシロウみたいな声を上げながら拳で叩き割る。

その愉快なテンションがうらやましい。正直、僕はすっかりビビッてる。

コーラとチキンナゲットを食いながら、ベッドでごろごろしながら観ていた洋画の、

プロの盗人たちに敬意を払おう。君たちは、スゴい。とっても。

 割った窓から手を入れて鍵を開け、なんなく僕たちは家の中に入った。

あまりにあっけなくて、僕は正直驚いていた。

一方、隆二は獲物はどこかな、なんて余裕の発言をもらす。

こいつ、すっかり洋画の主人公気取りだ。


冬の観覧車の最初へ 冬の観覧車 9 冬の観覧車 11 冬の観覧車の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前