冬の観覧車 第二話-4
「平和だな」とバスを降りた僕は呟く。眩しい陽光に目を細めて。
「平和だ」
「どの家にする?」
「さあ」
僕らは肩を並べて道を歩いた。静かだった。人一人歩いていない。
右手に見える二階建ての住宅の主人はサラリーマンで、ちょうど昼休みかもしれないし、
その妻もパートかなんかで留守なのかもしれない。子供たちは学校かも。
「誰も居ないな」僕は立ち並ぶ住宅をきょろきょろと眺めながら言う。
「そっちのほうが好都合じゃん?」
「まーね」
「もう面倒だからさ、インターホン鳴らして、誰も出なかったらそこにしない?」
「あ、隆二。それいいいね。賛成」
そういうわけで僕らはインターホンを鳴らして歩いた。
立て続けに回った三軒には人がいて、あの、中野さんのお宅はこのへんでしょうか?
などと適当に訪ねてごまかした。四件目。
ようやく留守の家にぶちあたった。黒鉛色の壁の家で、二階建て。
表札には、青野と書かれている。
「金、あるかな?」
「ま、入ってみようぜ」
「セコムとかねえかな?」僕はちょっと落ち着きなく言う。急に緊張してきた。
「ねえだろ、そんなにでかい家じゃねえし」
「ああ、小便がしてえ」
「後にしろ」うんざりしたように隆二は言う。「それより、さっさと仕事を済まそうぜ。
ルブ・アル・ハリ砂漠が待ってるぜ」
「俺は行く気ねえ」と僕は応える。
僕らは庭を歩き、辺りからちょうど死角になる場所の窓を見つけ、そこを割ることにした。
僕たちは持参してきた薄いゴムの手袋をはめ、窓にガムテープをぺたぺたと貼り付け、
それを隆二がケンシロウみたいな声を上げながら拳で叩き割る。
その愉快なテンションがうらやましい。正直、僕はすっかりビビッてる。
コーラとチキンナゲットを食いながら、ベッドでごろごろしながら観ていた洋画の、
プロの盗人たちに敬意を払おう。君たちは、スゴい。とっても。
割った窓から手を入れて鍵を開け、なんなく僕たちは家の中に入った。
あまりにあっけなくて、僕は正直驚いていた。
一方、隆二は獲物はどこかな、なんて余裕の発言をもらす。
こいつ、すっかり洋画の主人公気取りだ。