冬の観覧車 第二話-3
「なんかさ」と、その話を切り出したのは僕だった。「なんか悪いことがしたいな」
「悪いことって?」サクラが煙草の煙を吐き出しながら言う。
「それを考えなきゃな。だってよ、退屈で死にそうだ」
「外国に行きてえなあ」隆二が漏らす。
「パリ?」サクラが言って、隆二は首を横に振る。
「ロンドン?」僕がそう言っても、隆二は首を横に振った。
「砂漠」
「砂漠?」僕とサクラは同時に声を出した。
「そう、砂漠。アラビア半島のルブ・アル・ハリ砂漠に行きたいな。
ウィルフレッド・セシジャーみたいに」
「地名も人名も聞いたことがねえ」
「生まれながらの探検家だよ。ウィルフレッド・セシジャーは。
ルブ・アル・ハリ砂漠に初めて足を踏み入れたヨーロッパ人だ。
五十年間も遊牧民の下で暮らしたんだよ」
「遊牧民の仲間にもなりたくないし、砂漠にも行きたくないけど、退屈よりはましかもな」
「そうだ、お金!」サクラがよし、といった感じに手をぱちんと合わせて言う。
「盗もう。外国にもいけるし、お金を盗むなんて悪いことだし、一石二鳥」
「捕まりたくねえなあ」僕は煙草に火をつける。
「悪いことしたいんでしょ? 中途半端なのじゃなくて?」
「じゃあ、やっちゃいますか」と僕が言うと、サクラはもうノリノリで、
隆二は刑務所はごめんだとかブツブツいいながらも、反対はしなかった。
話し合いの結果、実行部隊は僕と隆二の二人で、サクラはカフェで待機ということになった。
「だって、アタシ女の子だし」という、たったそれだけの理由でサクラはとっとと戦線離脱。
男女平等! と僕は呟いてみたけれど、あっさりとサクラには無視された。
サクラに笑顔で見送られながら、僕と隆二はバスに乗り、住宅街へ向かった。
新築の住宅が立ち並ぶ閑静な住宅街は、真昼の陽光を浴びて穏やかに見えた。
僕と隆二はまるで、健康な人体に人知れず入り込んだ病原菌みたいだ。