冬の観覧車 第二話-2
一歩一歩、雪道の山道を登りながら、頭では宇宙の始まりを思い浮かべている。
ビッグバンに始まり、その十億分の一秒後。膨大な種類の粒子の集まるスープ状の宇宙。
そして月が初めて誕生した先カンブリア時代。
それは約四十五億六千万年前の出来事。気の遠くなるような年月だ。四十五億六千年?
それに比べたら、人の一生なんてものはなんて儚いのだろう。
仮に五年で死のうが、八十年で死のうが、大した違いはないんじゃないかという気がしてくる。
思いを馳せるは、太陽系、銀河系、局所銀河群から近隣宇宙。
壮大な世界、壮大なスケール。
余りに巨大で、僕を取り巻くすべてのものは霞んでしまう。
いや、そうなることを望んでいる。
僕の全てが霞んで、そしてやがて静かに消え去ってしまえば良いのにと思う。
それでも。
やはり僕にとって青野美千代という名前は、余りにもリアルで、
それを完全に忘れることは出来ないのだった。
それは霞むことなく、いつだって僕の心の奥深くを侵食している。
二年前。僕たちは十七歳だった。
青野美千代ちゃんは、僕たちが十七歳の頃、五歳だった。
僕は彼女について多くを知らない。
知っていることといえば、猫を飼っていたことと、
子供の頃から、耳の聞こえが悪かったことと、
ストロベリーミルクキャンディが大好きだったこと、
それから、ピアノを習っていて、その腕前はなかなかのものだったこと。
そのくらいだった。
勿論、僕らが初めてその家を見たときには、青野美千代ちゃんのことなんて、何一つ知らなかった。
そこにはどんな人が住んでいて、どのような生活を営んでいたのかも知らなかった。
いや、もっと言えば、幼い僕らにはそもそも生活とは一体ど何であるのか、
それすらもよく分かっていなかったように思う。
高校生の僕らは何の責任もなく、自由で、退屈だった。
その日も僕らはいつもと同じように、廃墟と化したビルの一階で煙草を吸いながらおしゃべりをしていた。
僕と、隆二と、サクラ。
僕たちは学校が終わると、また、あるときには学校をサボってはそこに集まるのが習慣となっていた。