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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(中篇)-8

「なん…なんだ…?」

やはり自分は出来損ないなのか。思えば父だけが、自分に期待をかけていた。

―お前は他のものとは違うのだ。

いや、それはそもそも期待だったのかどうか…今となってはそれすら定かではない。戦闘能力も、知性も、情緒も、他の澱みに劣らぬというのに、何故自分は他の澱みと違うというのか。ただ単に、“不安定”で、すこし他の澱みより好奇心が旺盛だというだけだ。刻一刻と薄れ行く意識の中で、自分はここで壊れてしまうのだと思った。

―そうか。これが人間の“死”に当たるものか。

この期に及んで、害は思った。

―痛いし、苦しくて辛いが、それ以上に…悔しいな…



そして、8月20日午前5時、害の思考は停止した。



++++++++++++++++++



あたりは絶え間ない喧騒に包まれている。ここから望む敵の本陣は遠く、仲間の戦いぶりも見えない。しかし、ここにはここの戦いがあった。壮絶な戦いが。

「イナサ!そこだ!」

結界の隙間から外に這い出す澱みは、戦いが始まって4日目を迎える今日に至るまでに少しずつ数を増してきた。はじめは本当に、やっと掻い潜れる程度しかなかった隙間が、今は、塞いでも塞いでもどこかにぽっかりと穴が開いてしまう。そこから漏れ水のように澱みが出てきていた。結界の壁を押し破ろうとする澱みが押し寄せて、結界の内側はほぼ澱みに埋め尽くされた真っ黒な壁となっていた。

イナサは結界を抜け出し、結界の編み手である狛狗族の一人を攻撃しようとしていた澱みを切り捨てた。彼の額は汗で濡れていて、髪は乱れ、目は真っ赤に充血している。そこには、神の傍に侍りその守りを司る気品に満ちた狛犬の面影はなかった。

この結界が破れれば、数え切れないほどの澱みが人間界に流出する。狛狗族たちは、それを防ぐためにここに居た。そして、震軍の多くが、ここで狛狗族の護衛と、もれ出た澱みの討伐に奔走している。

―犠牲は我らだけに留めなくてはならない。

それが、青嵐の決定である。それはつまり、自分達がたとえ滅びようと、人間を守るということでもあった。

「大和!お前の右に3体だ!」

イナサが叫ぶ。

「おお!」

答えた大和の体は傷だらけだった。彼を立たせているのは、あの錆びた刀の力なのだろう。そうでなければ、四日も戦い続けるなんてことは出来るはずがない。当のイナサも、自分の身体に限界を感じていた。

目の前にそびえる真っ黒な津波。いつ襲い掛かってきても不思議はない。徐々にか細くなる結界編みの詠唱。何百もの狛が一斉に歌い上げなくては、この結界を保つことは出来ない。そして、一度彼らの力の均衡が破れれば、あとは…。

「イナサ殿…」

先ほど喉から血を流して倒れ、今は安全な場所で休んでいた編み手の最長老が、かすれた声でイナサを呼んだ。


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