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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(中篇)-4

「ほら、二人を起こして次のビルに行くぞ」

「え、おい…」

完全においていかれた真田は、無精ひげを掻きながら、ふと窓の外を見た。何か居る。

―黒い…なんだ?

「なあ、あれ…」

飛び起きた小夜が、気配を察して小さく叫ぶ。

「澱み!!」

「真っ直ぐこっちに来るぞ!」

「隠れてろ!」

野分は人間の二人を、オフィス机の下に押し込もうとした。しかし、

「あのメモ消してない!」

河野が野分の横をすり抜けてトイレへ走った。

「あ、馬鹿もどれっ!!」

つられて飛び出した真田を野分の手がつかむ前に、窓ガラスが割れる音がした。河野は、前を走りながらシャツを脱いでいる。二人はトイレに駆け込んで、慌てて脱いだシャツでその鏡面を拭った。

「何を必死になって隠している?」

二人は動きを止めた。トイレの窓が開いている。鏡には何も映っては居なかったが、次の瞬間天井からどろっとしたものが降りてきて、二人の腕を絡めとって捉えた。

「う、わぁっ!」

澱みは天井に潜んで居たのだ…まるで、得物が下を通りかかるのを待っていた蜘蛛のように。

2体の澱みが、雨漏りの黒い染みのように天井に張り付いて、そこから触手で二人の身動きを封じていた。腕に絡みつく黒いものから、体中の熱が吸い取られていくような気がした。―意識が遠のく…

「おい」

さっきの声が言った。まるで少年のような声だ。その声は天井からではなく、さっきは死角になっていたトイレの隅から聞こえた。

「誰がそいつらの魂まで食って良いといった。魂にはまだ手を出すな」

“魂”に手をつけられていたのか。真田は妙に納得した。ホワイトアウトしそうになっていた視界が、徐々に輪郭と色を取り戻していく。彼の前に立っていたのは“本当”に子供だった。ただし、これが“本物”の子供なら、グレムリンだってチワワと呼ばなくてはならない。それほどこの子供の表情には子供らしさや、人間らしさがなかった。

「お前…」

「質問に答えてもらうぞ、人間。お前達が消そうとしていたのは何だ?」

一番見られたくないところは、思いっきり見られてしまった。はてどう答えたものかと、真田が焦る頭で答えをひねり出そうとしていると、その様子を見て子供が言った。

「八条と飃だな?」

ぎくり。という表情を隠すには遅かった。少年はなるほどというように微笑んだ。なぜか嬉しそうでもある。欲しい玩具を見つけた子供の笑みというより、邪魔な奴が消えて喜ぶマフィアのドンという感じの笑みだが。


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