英雄-1
ゴルゴーン―― 美しい顔とはうらはらに髪の毛一本一本が蛇になっており、その禍々しい目は蛇眼と呼ばれ、見たものを全て石に変えてしまう。今この恐ろしい怪物が人里離れた薄暗い研究所のなかで復活しようとしていた。
「ふはははははは。ついに完成した!」
半分以上白髪になった髪の毛は全く手入れされておらず、目にはぐるぐるメガネ、既に元の色がわからなくなっている白衣のような物を身にまとったその男は両手をいっぱいに広げて叫んだ。博士である。目の前には、女性の首から上をかたどった彫刻のような物体が置かれている。まさにギリシャ神話のゴルゴーンのように髪の毛は蛇でできており、生きているかのようにウネウネとうごめいている。
「ふにゃ!?」
突然大声を出されたので、テレビの上で昼寝をしていたネコは目を覚まして博士を見た。
「おお!タマよ。目を覚ましたか」
博士は得意げに、ネコに話しかけた。
「こいつはな、ゴルゴンヘッドと言って全ての物を石に変えてしまうのじゃ。よし、そな たに見せてやろう」
そう言って、ゴルゴンヘッドの顔の向きを調節した。その視線の先には、カビの生えたパンにかじりついている数匹のネズミがいる。博士は髪の毛の蛇をかき分けると、一瞬、溜めを作った後に「キェ〜〜」と奇声を発しながらボタンを押した。すると女性の目が開き何やら怪しい光が発せられた。ゴルゴンが「オオオ〜〜ン!」と吠える。その瞬間、ネズミたちの動きが止まり、そのまま固まってしまった。
「どうだ、すごいだろう。これでワシはこの世の覇者になるのだ! 世の人間どもよ、このワシにひれ伏すのじゃ。逆らう者は片っ端から石にかえてやる。がははははははっ」
タマは博士が何を言っているのか分からなかったが、遊び相手であるネズミたちが動かなくなってしまった事が分かり、とてもつまらなくなった。
「よし、世界制服の前に休息じゃ。この研究には全身全霊を使ったからな、英気を養わねばならん。タマよ、腹がへったらそこのキャットフードでも食べておくのだ。そなたは、このワシの側近としてこらからも側に置いてやるぞよ」
そういって博士は豪快ないびきをかきながら眠ってしまった。
タマはネズミたちが動かなくなってしまったので、せめて博士に遊んでもらいたかったがそれも叶わず、何か動くものがないかうろうろと探し回った。研究器具ばっかりの部屋にはタマの気を引きそうなものはなかなか見つからなかった。
仕方なしに、先ほど博士がさわっていた蛇を引っかいてみた。蛇はウネウネと動きながらタマに攻撃してくる。次第にバトルは激しくなり、ついにタマの猫パンチが炸裂した。
その瞬間、ゴルゴンヘッドの目が開き、怪しい光が発せられる。ゴルゴンヘッドの視線の先では博士が間もなく永遠の眠りに就こうとしていた。
研究所のなかに「オオオ〜〜ン!」という声が響き渡る。
タマはノーベル平和賞を受賞しても良いかもしれない。