StealthA-9
「これで揃ったわけだ」
日曜の午後、今田は港湾近くの廃倉庫に呼び出された。目の前には、覆面にサングラスを着けた男が2人待っていた。
男のひとりが今田に指示する。
「あんたにやってもらいたいのは、電算室に入るまでの手引きと、データ取りの際に必要なアクセス・コードだ」
指示に対し、今田は頷いてカバンから手帳を取り出した。その様子は、先日、地下鉄で見せた状態よりも落ち着いていた。
「電算室に入るまでには3ヶ所のチェック・ポイントがあります。それは可能ですが、ビルの外から招き入れるとなると……」
「これを使って下さい」
もうひとりの男がポケットからタバコを取り出した。
「あなたは新しく発売されたタバコを買いたくて、ついビルの外に出てしまった。
その隙に族に襲われ、ビルの侵入を許してしまった」
今田はタバコを受け取りながら怪訝な顔をする。
「…確かにタバコは吸いますが…そんなに上手く…」
「仮にバレたとしても、脅されて仕方なくとすれば、あなたを疑う者はいない」
「でも、もし、仮にあなた方が捕まったら?」
不安気な声をあげる今田。しかし、目の前に立つ2人から表情は見られない。
「仮に捕まっても、金は振り込みます。当然、あなたのことも喋りませんよ」
「どうやって、それを証明してくれるんです!?バレたら私は身の破滅なんですよ!」
今田は声を荒げ2人を睨みつけた。
無理もないことだった。愛社精神など無いはずだったが、いざ、行動となると保身と良心の呵責にさいなまれる。
しかし、自身の弱みはすべて握られ、従うほかに道はない。
今田にとって、精一杯の抵抗だった。
そんな彼に覆面のひとりは言った。
「私の言葉…それでしか証明は出来ません。だが、今田さん。いずれにしても1回こっきりです。
それ以降は決して迷惑は掛けません」
言葉を聞いた今田は、頭を垂れた。
「…従うしかない…ですね」
覆面の2人は今田に手を差し出した。
「…握手といきましょう。誓いの」
今田は恐る々手を出し、2人の手を握った。