StealthA-6
「マイク、ずいぶん遅い時刻に掛けてくるな?」
「ようやく仕事を終えてね」
受話器から聞こえるリベンジャーの声は、疲れたようにかすれていた。
「おまえら“カンパニー”の人間は何かと大袈裟だからな…」
「慎重と言って欲しいね。我々の仕事は様々な角度から…」
「カンパニーのスポークスマンでもあるまい、用件は何だ?」
高鍋はリベンジャーの言葉を遮った。
「すまんジョージ。疲れてるんだな…ところで先日の“指令”だが、どこまで動きだした?」
「ああ、君から指令を受けた2日後にはスタートさせたが?」
「じゃあ10日にもなるのか…」
リベンジャーはどこか言い難そうだ。
「ジョージ、コントラクターは誰なんだ?」
高鍋は耳を疑った。指令を与えた場合、それがどのようなプロセスを得て完了しようが、詳細なことは知らせる必要がないのが決まり事だからだ。
「マイク…今までの決まり事を忘れたわけじゃあるまい」
「…確かにそうだが、私としては“奴ら”を出し抜くためには詳細を知っておく必要があるんだ」
「奴らって…ペンタゴンか?」
問いかけにリベンジャーは答えない。高鍋は考えた。
(そういえば、奴らの後にいるアメリカの軍産企業が、指令の必要性を問うていると聞いたことがあるな…)
「仕方ないなマイク…今回のは貸しだぜ」
高鍋の声を聞いたリベンジャーの声が心なし明るくなった。
「すまないジョージ。この埋め合わせはするよ」
「まずコントラクターはキョウイチ・マツシマ。彼は私が抱える人間の中でトップ中のトップだ。
期間は1ヶ月。報酬は日本円で1,000万。必要経費は別だ」
「約10万ドルか…少し高すぎるんじゃないのか?」
この言葉が高鍋の心を苛立たせた。
「それだけ優秀なんだ。おそらく彼にしか出来まい」
「それにしたって…マフィアのヒットマンじゃあるまいし…」
次の瞬間、高鍋は怒鳴っていた。
「ユー・ビッチ!だったらオレは手を引く!自分達でやるんだな」
罵声を浴びせると受話器を叩きつけた。間を置かず、再びリベンジャーから連絡が入った。
「…なんだ?」
「すまなかったジョージ、許してくれ」
反省したようなリベンジャーの力無い声が聞こえた。
「分かった、許そう」
「ありがたい。殴られても仕方ない状況だったのに…」
「じゃあ10万ドル、オッケーなんだな?」
「ああ。そっちは局長と掛け合っておく。よろしく頼む」
リベンジャーからの電話が切れた。高鍋は受話器を元に戻すと、再び書類の山に目を通し始めた。