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Stealth
【アクション その他小説】

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StealthA-5

「…い、いえ…そういう訳じゃ」
「アンタ位の器量なら“水商売”の方が金になるだろうに」

 広野の目は好奇心というより慈愛に満ちたモノだった。
 掃除婦というのは見た目以上にキツい仕事だ。しかも、時給も安い。若い美奈が何故こんな仕事を選んだのか心配そうな様子だ。

 美奈は広野の思いを汲み取った。

「…そういうのって苦手なんです。私には身体を使う仕事の方が合ってるんですよね」

 その途端、広野の表情が緩んだ。

「真面目だね。気に入ったよ」

 周りから“へぇ〜っ”という感嘆の声があがった。

「タケさんから気に入られるなんて、珍しい娘だよぉ」
「ホント!今まで若い娘も何人か来たけど…皆んな辞めていったもの…」

 周りの声に広野が顔を赤らめた。

「なんだい!アンタ達、ひとを意地悪ババァみたいに」

 その言葉をきっかけに、歓声のような笑いが挙がった。美奈は少し引いた視点で見つめ、“良い関係だなぁ”と思った。

 美奈は広野の前に出た。

「…明日からも、よろしくお願いします広野さん」
「広野さんじゃないよ、“タケさん”って呼びな」
「分かりました!じゃあ…タケさん」
「はいよっ!」

 広野は顔をシワだらけにして笑った。つられて美奈も笑った。




 正午前。高鍋はオフィス奥にある自分のデスクに、高く積まれた書類に目を通していた。
 エージェントから送られくる情報は、予め社員によってチェックされるが、最終的な鮮度、正確度においてチェックするのが高鍋の仕事だ。

「…ひどいものだ…」

 高鍋は頭を撫でつけながら1枚の調査書をゴミ箱に捨てた。
 恭一のようなトップ・エージェントなら、その情報は無条件で信用出来るが、彼のような人間はそうそういない。

 産業スパイの中には、素人同然のようなヤツも多く、そういう輩に限って金欲しさや自分を出来る人間にみせるために、まったく必要も無いモノばかりを集め、肝心な部分がすっぽり抜けていたりするのだ。

 彼が手にした書類を次々と捨てていると、ドアがノックされた。

「どうぞ」

 ドアが開かれて現れたのは、彼の秘書、森田陽子だ。

「社長、リベンジャー氏からお電話が入っております」
「分かった、こっちに継いでくれ」

 森田が出ていってすぐに高鍋のデスクにある電話が鳴った。高鍋はデスクの引き出しの中にある黒い箱についたスイッチを“オン”にして受話器を取った。


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