StealthA-4
「…そいつは今田の携帯の発信記録なんだが、毎日、10回以上同じ番号に掛けている」
「…浮気か?」
五島は頷き、
「しかも相手は乾っていう奴の上司の奥さんだ。ソイツからこずかいをもらってる」
「なるほど…逸材だな」
「だろう!しかも乾は愛妻家ときてる」
五島はご機嫌といった表情で声を弾ませた。恭一は視線を上げて言った。
「じゃあ、明日にでもオレが今田にアプローチするよ…それから機材を揃えて…上手くいけば決行は1週間後だ」
五島に先ほどまで見せた浮かれた雰囲気は無かった。硬い表情で恭一を見つめた。
「吉報を待ってるぜ」
恭一もまた見返した。
「ああ、すぐに連絡するよ」
アパート前に停まったルノー4は、動き出して闇へと消えて行った。
「…ほ、本日からお世話になります梶谷美奈です。皆さん、よろしくお願いします!」
ビルの1階奥にあるモップや雑巾、バケツなど掃除道具が並ぶ部屋で美奈は挨拶した。彼女の前には明らかに50代以上であろう“おばちゃん”数人に混じり、40代後半くらいの“ハゲ男”が笑顔で迎えてくれた。
ハゲ男が言った。
「梶谷さんは、こちらでひと月研修を受ける予定です。皆さん、仲良くしてやって下さい」
挨拶を終えるとさっそく仕事だ。初日とあってか、美奈は広野というベテランと組まされた。
ところが、
「ホラッ、とっとといらっしゃい!それ持って」
「ハ、ハイッ!」
広野はかなり厳しい人だった。美奈は雑巾やバケツをかかえて廊下や階段を行き来させられる。
(やっぱりだ!…初日からこれじゃ持たないよぉー)
汗をかきながら、以前のことを思い浮かぶ美奈。
「ここ磨くわよ!さっさと水を汲んできて」
「ハイッ!」
美奈は先にある給湯室へと急ぐ。
(…くっそー、いくら100万のためとはいえ、恭一のヤツ…恨んでやるぅ)
その後、大きな部屋のワックス掛けなどをやらされ、早朝から続いた掃除の仕事も、昼過ぎには1日の分を終えた。
「…こ…腰が痛い…」
更衣室で帰り支度をする美奈は、辛そうな顔で腰に手をそえ伸ばす動作を繰り返す。それを見ていたおばちゃん達は笑いながら声を掛けた。
「お嬢ちゃんにゃキツかったろう。ひと月やれば慣れるよ」
「…は、はぁ…」
美奈が作り笑顔で答えてると、
「なんかワケ有りかい?」
彼女とペアを組んでいた広野が訊いてきた。
美奈は返答に困った。まさか本当のことを言うわけにはいかないからだ。