StealthA-3
恭一の説明が続く。
「だから、そこに居る調査対象を君は監視してくれりゃいいんだ」
「私は何をするの?」
「あのビルと契約している清掃会社に入って、普段は一作業員として作業をしてくれ。必要な時にはこっちから連絡するから」
ようやく理解した美奈は苦い顔をした。今のバイトをやる以前、掃除婦のバイトをやったことの有る彼女は、あまりのキツさに3日で辞めた経歴があった。
「…あの、それ断われないの?」
「ああ、100万の仕事だからな。イヤなら君には辞めてもらって他のバイトを入れるよ」
(…今のバイト辞めたらって…)
美奈の頭に、自分を罵倒する両親の顔が浮かんだ。
「…分かりました…」
美奈はしぶしぶ了承し、翌日から掃除婦として播磨重工ビルに入り込る約束をした。
調査開始から1週間後の夜、五島のアパートを恭一が訪れた。
「どうにか見つかったらしいな」
開口一番、明るい口調で訊いた恭一に五島が頷く。
「おそらくコイツ以外にいないだろう。それくらい逸材だ」
そう言うと恭一を奥へと招いた。五島の部屋は狭く、短い廊下の奥に8畳ほどのひと間だけだった。
窓際には巨大な机があり、上にはカスタマイズされたパソコン2台と、電波受信機らしきモノが2台置かれている。
部屋はフローリングなのだが、雑誌や食べカスを詰めたコンビニの袋が無数に転がっており、とても靴を脱いで入るのも躊躇うほどだ。
だが、恭一はまったく意に介した風もなく部屋へと入ると机へとむかった。
「どいつなんだ?」
恭一の言葉に、五島は机に置いた1枚の紙きれを渡した。
「こいつだ…今田郁己…」
紙きれにプリントされた写真は長髪で神経質そうな、いかにも研究員といった雰囲気だった。
「…あのビルの設計部に所属していて、見た目と違い博打…これは競馬と競艇だな…が趣味だ。
おかげで金融会社から多重債務している。額は約600万…」
「しかし、それじゃ脅しても…」
「まてまて、話はここからだ」
五島はそう言うと、さらに1枚の紙きれを恭一に渡した。それは、ある日の電話記録だった。