StealthA-2
「それは無いだろう。奴らだってそこまでバカじゃない…オレ達がそれなりの“保険”を掛けてくることくらい考えてるだろ」
「なんでそう思うんだ?」
「オレの勘だ…」
恭一の昔を知る五島は、それ以上、突っ込んだ話を止めた。
恭一が言葉を続ける。
「やるにあたって色々と検討したんだが、隠密な侵入は無理だ。そこでノーマルな方法で侵入する」
「ノーマルな方法って…?」
五島が探るような目を恭一にむけた。
「そこで、おまえに調べてもらいたい。播磨重工の研究、開発員の中でプライベートにブラインド・スポット(弱み)のある奴を…」
(なるほど、そういうことか…)
恭一の言葉に五島は頷いた。
「分かった。すぐにあたってみよう」
そう言って立ち上がり掛けた五島を恭一は制した。
「もうひとつ。オレの勘が正しければ、あそこのデータは必ずどこかに転送、もしくは人の手によって運び出されている。
監視はオレが受け持つから、おまえはあそこからの発信電波を調査してくれないか?」
「…それと、暗号解読のプログラムも必要だな」
五島は立ち上がってニヤリと笑った。
「毎度のことだが、おまえと組むと、いつの間にか乗せられちまってるな…」
それだけ言うとオフィスを後にした。その後姿を見つめる恭一も、五島と同じように笑うと、
「それは違うぜ。おまえの秘めた心がそう導き出したのさ…」
彼はポケットからキャメルを取り出し、火をつけるとうまそうに吸った。
翌々日から、2人のアプローチが開始した。五島は自宅アパートにこもると、卓越したハッキング技術を駆使して、播磨重工研究所職員の個人データを集めた。
恭一も研究所近くに仮住まいを設けると、昼夜問わず、出入りする車をチェックした。
だが、1番ドラスティックに変わったのは美奈だった。研究所を調べ始める前日、恭一は彼女に言った。
「美奈!今度は大きな仕事だ」
そう言って笑顔で彼女の肩を叩いた。日ごろ、恭一にそんな事をされた事もない美奈は顔を引きつらせる。
「…こ、今度は何やるの?」
察しの良い美奈は恐々としながら仕事内容を訊ねた。
「アレッ、美奈ちゃん分かっちゃった?」
「当たり前でしょうが、で、何?ホテルは嫌だからね…」
「〇〇町にある播磨重工ビルに掃除婦で入ってくれ」
「はいぃ?」
いきなりのことに、美奈は言葉の意味を理解出来なかった。
それは一昨日の事だった。恭一清掃会社を訪れ、謝礼を払うということで、美奈をひと月働かせてくれるよう頼んでいた。