StealthA-12
「いくぞ!」
2人は闇に紛れた格好でクルマから降りた。
「…すいません…抜け出すのに手間取っちゃって…」
「いいから、急ぎましょう」
3人はビルへと近づいた。
「警備員は仮眠に入りましたから、今は手薄です」
今田は“機材搬入扉”と書かれた大ぶりのドアの前で止まった。
「ここが1番監視が薄いんです」
そう言うと、ポケットからシュラーゲ(識別カード)を取り出し、ドアの横に埋め込まれた10センチ四方ほどの認識器に当てた。
“カチャ”という音とともに、ドアが開いた。
「ここから5階までは非常階段を使います」
恭一と五島は、バックパックに重い機材を抱えて今田の後をついて行く。
五島は日頃の運動不足のためか、5階にたどり着いた時には、息も絶え々だった。
「ち、ちょっと…休ませてくれ…」
「おいおい、今からが本番だぜ。しっかりしろよ」
恭一はバックパックを下ろし、中からペットボトルを取り出した。五島はそれを奪い取るように受け取ると、覆面から露出した口に当てて一気に飲み干した。
「この扉のむこうから監視カメラが作動していますから」
今田の言葉に緊張感が増す恭一と五島。
「じゃあ、君は両手を上げて前を歩くんだ。オレがこいつで脅すから」
恭一が取り出したのはサバイバル・ナイフだった。
5階の扉が開かれる。深夜のため薄暗いが、中は白を基調にした清潔感溢れるモノだ。
今田は両手を上げたままエレベーター・ホールへと進む。背後からはサバイバル・ナイフを持った2人組の覆面姿が、監視カメラの前を過ぎて行く。
エレベーターの前に着いた。普通、昇降ボタンのある場所に、液晶パネルが埋め込まれている。
黒いパネルに触れると、コンソールボタンが表れた。今田は何事か呟きながら、ボタンを押していく。
「…E13…β2…ё…55…」
最後に“起動”ボタンを押すと、エレベーターに電源が入り扉が開いた。
五島は首を振り振り、
「乱数かと思ってたが、まさかギリシャやロシア、アラビア文字まで使ってるとは…」
「上のコンピュータのアクセスコードも今のと同じかい?」
「ええ、同じものを使います」
3人はエレベーターに乗り込んだ。
その後、残り2つのチェック・システムも今田のおかげでスムーズにパスすると、
「ここが電算室です」
2枚の扉が開いた。高さはそれほどでもないが、奥行きがある空間が広がる。