StealthA-11
「どうしたんです?突然、現れて…」
美奈は助手席に乗り込んだ。それを見届けて恭一はクルマを発進させた。
「どうだ?ここに入ってから10日になるけど…」
「いやぁ、時々、見てますけど、怪しいちゃ怪しいし、怪しく無いちゃ怪しく無いし…」
「そうじゃなくて、掃除婦の仕事だよ」
「…あ!そっちですか」
美奈は顔を赤らめる。
「最初の数日は…キツくて、身体中が痛くて…でも、今は少しはマシかな」
「仲間は?皆んなとは打ち解けたか」
「うん!すっごく。皆んな良い人ばかりで、楽しいの」
「そうか。そいつは良かった」
美奈のハツラツとした表情に、恭一は目を細めた。
クルマは通りを左折すると、両サイドを銀杏並木が続く道を進む。銀杏の葉が黄色い帯のように続く中を、オフホワイトのルノー4は走り抜ける。
「…ところで、今日は頼みがあってきたんだ」
「な、何…?また別の仕事」
恭一の改まった口調に、イヤな予感がした美奈はつい構えてしまう。
「いや、そうじゃない。こいつを預かってくれ」
恭一は大きめの封筒を渡した。
「…何?これ」
「現金100万円」
「エエッ!ひゃくまん」
美奈は封筒を握りしめたまま奇声をあげた。
「デカイ声だすな!運転出来ねえだろ」
「…ど、どこにこんなお金あったの…事務所の通帳なんか、50万円以上見たことなかったのに…」
「ちょっと臨時収入がな。それより、その金をこの口座に振り込んでくれ」
美奈は深くため息を吐くと、
「せっかく入って来たのに右から左なんですね。ウチの事務所っていつになったら金持ちになるんですかね…」
100万円の感触を指で確かめながら、頬を膨らませる。
「振り込む時は事前に連絡する。それまでは眺めて楽しんでろ」
「自分のじゃないんだから、眺めたって楽しくない!」
2人を乗せたルノー4は、小春日和な陽気の中を走り去っていった。
「…なかなか出てこねえな」
美奈を自宅に送り届けた9時間後、ルノー4は再び播磨重工ビル近くに止まっていた。時計の針は約束の零時を5分過ぎていた。
その時だ。ビルの影から人がこちらへ近づく気配がする。恭一と五島は目を凝らした。
暗闇にわずかに浮かぶシルエットは、今田の特徴を表していた。