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『ポッキーとプリッツ』
【青春 恋愛小説】

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『ポッキーとプリッツ』-1

屋上で、その歌声を聴いていた。
寒い空気の中、響きわたる甘く柔らかく美しい歌声。
特徴的なその声は、姿を見ずとも分ってしまう。
それが貴帆(きほ)の声であると。

貴帆の声好きだな、と素直に思う。
鞄からヤオイ小説を取り出して、1番好きなお菓子であるプリッツを口にくわえながら読む。
コーラス部の練習をさぼって、屋上でこんなことをする。
悪いことをしているとは思うが、なんとなく贅沢な時間。

最近こうやって、コーラス部の練習をさぼることが多くなってしまった。
理由は自分で分っている。
ヤオイ小説は、微妙にストーリーが頭に入ってこない。
その理由も分かっている。

本当は、貴帆の歌声に酔いしれることなどできていないのだ。
私達は、コーラス部でソロを争っている。
こうやってさぼることで、戦いを半ば私は放棄してしまっているけど。

「なーにさぼってんだよ。」

突然、階段の方から人が現れた。
慌てて、ヤオイ小説を閉じ鞄の中に入れる。

「何隠してんだよ。」

人を小馬鹿にしたように喋るそいつの姿を認め、私は少し安心する。

「なんだ。安宅か。」
「ひどい挨拶だな。」

安宅は笑いながら、私の横に馴れ馴れしくも腰を下ろした。
自殺防止用にやたらと高くなっているフェンスが、ギシリと音を立てた。

「色気ねーもん食ってんなぁ。」

そんなことを言いながら、私の左手からプリッツを1本抜くとパリンと食べた。

「お前、こんなもんばっか食ってるから発育が悪いんだ。だからプリッツとか呼ばれちゃうんだよ。」

人の胸のあたりを遠慮なくジロジロ見ながら言う。思い切りセクハラだ。
私だって知っている。
背が高くてガリガリでキツイことを言う私のことを、陰で男子たちが、律子という名前を文字って「プリッツ」と呼んでいることを。

そんなことじゃ、別に傷つかない。元々好きだったプリッツをもっと好きになってしまっただけだ。
ただ、それと対比して親友の貴帆のことを男子がポッキーと呼んでいるのを聞いた時は少し胸が痛かった。

ふくよかで優しくて甘いポッキー。
細くてギスギスしていてしょっぱいプリッツ。
比較されるのは気分が悪い。どんなに貴帆のことが好きでも。

「そう言えば今日は何の日か知ってる?」

黙ってしまった私の気をそらさせるように、安宅が話題を変える。

「今日は11月11日・・・・・・犬の日。」
「は?」
「ワンワンワンワンだから。」

適当に答えると、安宅は

「それじゃ1月1日も、1月11日も、11月1日も全部犬の日じゃねーかよ。」

と心底呆れたように言った。


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