飃の啼く…最終章(前編)-12
「どうしたのよ、南風。だらしないわ!自分の兵隊も守れないような女は、助太刀に入ったってこんなもんよねえ!そうでしょ!?」
力任せに叩きつけられる斬馬刀に、南風は攻めるチャンスを見つけられない。間合いを広げようと後退するのはいつも南風のほうだった。
受け切れなかった刀が、肩を、腕を切り裂く。冥の高笑いが、剣と刀が鳴る音を圧して響いていた。
その二つの音の隙間から、兵士達の声が聞こえてくる。
―南風様、逃げてください。あなただけでも…!南風様、南風様…!
「そうよ…私は沢山の命を見殺しにした」
「そうよぉ!そんな役立たず、さっさと死んじゃないなさいよ、ほらぁ!」
ガン、と硬い音がして、南風の剣がゆるぎない力で冥の一撃を受け止めた。そして、そのまま剣を刀の根元に向って走らせると、柄のところで剣をくねらせて指ごと斬馬刀を勢いよく払った。
「き、貴様…!」
「私がどうして乾軍の大将だと…どうして、九尾守の首領を勤められたと思うの…?」
ゆらりと殺気を纏った彼女の目は金の業火で燃えていた。
「おびただしい犠牲の上に立ってなお、正しい方向に目を向けることが出来るからだ、下衆め!」
嵐のように風が吹き荒れ、南風の髪を束ねていた組みひもが解けた。はらりと広がった白い髪。それが風になびいて、冥の目を覆った。
「な…っ!?」
目にも留まらぬ南風の剣舞の後、発した澱みの声は、ごぼごぼと濁っていた。
風が収まり…冥の目隠しをしていた髪が…はらりと地面に落ちた。南風の肩に流れる髪は、以前の半分も長さも残ってはいない。南風は、冥の肩口から腹まで、剣を深々と食い込ませていた。
「ち、チクショオ…女の癖に、こいつぅう…自分の髪ごと…!」
彼女は剣を引き抜いて、顔にかかった髪をかきあげた。
「ただの女と一緒にされちゃ困るの…」
口から体液を迸らせながら、澱みは傷口をかばって後ずさった。
「ちくしょぉお!!」
瞬間、澱みの体が上下に伸びた。
「何!?」
錯覚ではなく、まるで蛇花火が伸びるのを早回しで見るように、そいつの体はうねりながら、瞬く間に姿を変えた。
「こんな姿になりたくなかったのに…こんな醜い姿にだけは…!」
うめき声を上げる冥の姿は、確かに醜かった。歪な形の鱗に覆われた、巨大な蛇。
「お前のせいで…畜生…お前のせいでこんな姿になっちまったじゃないのさぁあ!!」
蛇は鎌首を上げたかと思うと、叫びながら南風に襲い掛かってきた。