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雪舞う
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雪舞う-1

白い粉雪の舞う季節、今でも私は貴方を想う。
積もった雪に、延々と続いていた貴方の足跡。
激しい雪に消されていくそれを辿ることすらできなかった。
ただ深く積もり始める雪を、恨めしく思うだけ。
真っ白な視界は、涙で滲んだ。

3月16日。

この地方では珍しくもない粉雪が舞った日。
貴方の背中は一瞬で見えなくなっていた。
行かないで、と呟いた私の声は、細かな雪に吸い込まれて消えた。
雪の中に佇む私を、隣の庭の雪だるまが不思議そうに眺めていた。
私は。
ずっとずっと、その場から動くことができなかった。

***

この地の暖かさは、同じ3月とは思えないほど快適だった。
少なくとも、同じ日に降り頻っていた粉雪を忘れるほどには。
鳴り響いては止み、またしばらくして鳴り響く電話の音に目が覚めたのは真夜中。
草木も眠ると言われる午前2時37分。
こんな時間に、と思ったが、しぶしぶベッドから起き上がる。
裸足の足の裏に硬い絨毯の毛がざわり、と突き刺さり、見慣れぬ部屋に寝ていた事を思い出した。
「はい。」
「観月さん?観月尚之さん?」
聞き覚えのない女性の声。
あまりに慌てふためいた様子に、何か起こったのだろうかと考える。
熟睡していた頭が、ようやく働きはじめていた。
「あの、有希子が、あ、私、あの…。」
女性の言葉がつながらない。
何かが、それも有希子の身に、何かが起こったのだということだけが、直感的にわかった。
「あの、有希子に何が?」
自分の声が、驚くほど震えていたような気がする。
「あの、ゆ、有希子、亡くなったんです。昨日。」
目の前が真っ白になった。
「私、友人の…―。」
女性は言葉をつなげていたが、もう何も聞こえてこなかった。
真っ白に舞う粉雪に、全ての音を吸い込まれてしまったかのように。

***

今日も細かな雪が舞っている。
私はずっと待っていた。
「尚之。」
帰って来てくれた。
真っ白な粉雪を纏わせて、漆黒のコートを羽織って。
どんなに遠くからでもわかる。
嬉しくなって声をかけたのに、彼は全く気づかずに、慌てた様子で通り過ぎてしまった。
待って。
私はずっと待っていたのに。
待って、ね、待ってよ。
それでも私は動けない。

3月20日。

暦の上では春になろうとしていた。
隣の庭の雪だるまが、しんしんと積もる雪に埋もれていく。
粉雪が降り続く限り、私はこの場所で彼を待ち続ける。

二度と彼の温もりに触れることができないなんて思わない。
だって彼は言ったから。
待ってて、迎えに来るから、って。
真っ白な粉雪が舞い上がる。
細かな雪が――。


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