冬の観覧車(第一話)-4
次のバス時間まで一時間もあった。
一時間も待つよりは、歩いていったほうが良いかもしれない。
バスがやってくるよりも早く目的地へ辿り着けるはずだし、外を歩くことなんて、最近ほとんどなかった。
どちらにせよ、何も急ぐことなんてない。しばらく迷った後で、とりあえずは煙草を吸ったら歩こう、と決めた。
灰皿のある休憩所まで歩く。
ふと、メンソールの煙草の香りがした。
隣を見ると、どう見ても高校生にしか見えない少女が一人、気だるそうに煙草を吸っていた。
その姿が、かつてのサクラと重なった。僕が産まれて初めて吸った煙草も、メンソールだった。
サクラが愛用していた煙草。五年前の話だ。
突然夜中に目を覚ました。
誰かがどこかで僕を目覚めさせるスイッチを押したみたいだった。
いつも目覚めたときに感じる気だるさはなく、頭もすっきりとしていた。
本当に自分は眠っていたのだろうかと思うほど、きっぱりとした目覚めだった。
ペニスにねっとりとした湿り気を感じる。
隣ではサクラが静かに寝息を立てている。
物音は何も聞こえない。部屋の中は真っ暗だ。
なぜ目を覚ましたのだろうと僕は考える。
目覚まし時計がなったわけでも、携帯電話が鳴ったわけでもなかった。
一旦目が覚めてしまうと、睡魔はすっかりどこかへ行ってしまった。
僕はサクラを起こさぬように気をつけながら、そっとベッドを出た。
体が汗でべとついていた。少し寒すぎるくらいの、冷たい部屋の空気が肌に心地良い。
僕は窓際まで歩いていって、カーテンを少しだけめくり、外を眺めてみた。
変わったところは一つもない。昨日と同じ、一年前と同じ景色。
僕はその景色を見ると、不思議と気が休まるのだ。子供の頃から、
無意識ながらも僕はずっとこの景色を眺め続けてきたからだろう。
体の汗が乾き、少しだけ肌寒くなる。
カーテンを閉め、僕はベッドへ戻る。
サクラはぐっすりと眠り込んでいて、僕はその横顔を見つめる。
いつから彼女のことをこんなにも好きになっていたのか、思い出そうとする。
でも、それは上手く思い出せない。