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冬の観覧車
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冬の観覧車(第一話)-3

ドライブインの中には、食堂が二つと、土産物屋が入っていた。

二階には地元の登山家の持ち物やなんかが展示されているらしかった。

一体誰がそんなものを見て楽しいのだろうと僕は思う。

登山家に興味のある人間よりも、興味のない人間の方が多いと思うのだけれど。

僕は登山家にも興味がなければ、みやげ物を買ってあげるべき人も居ないので、

さっさと食堂へ入った。カツ丼を頼み、出された熱いお茶をすすった。

何も考えたくなかったので、食堂で働く人たちとか、窓から見える人々を観察しながら過ごした。




食後に煙草を吸っていると、食堂の女主人と思しき人がやってきて、

僕の席へ胡麻団子を置いた。何故胡麻団子なのかは疑問だったが、

あえてそれを口に出すことはしなかった。食後のサービスなのかもしれない。

「よかったら、どうぞ」女主人は感じのいい微笑を浮かべて僕にそう言った。

 僕なんかに優しくしないでください、と言いたかったが、勿論やめた。

「ありがとうございます」と、僕はぼそぼそと言った。

「旅行ですか?」

「いえ」と僕は言った。少し迷って、「遊園地へ行くんです」

女主人は怪訝そうに僕を見つめた。そして、少しばつが悪そうに「そう」と、

それだけを言って奥へ引っ込んでしまった。

もしかしたら、僕を変な奴だと思ったのかもしれない。

まあいい。僕が変な奴であろうとなかろうと、女主人にとってはどうでもいいことだ。

それは、僕自身の問題だ。

幸運なことに、僕を取り巻く人たちはほとんど居なかったおかげで、

僕の気が狂っていたところで、迷惑をかける人達はいなかった。

僕は胡麻団子を食べ、会計を済ませ、外へ出た。

本当はもう少しゆっくりしたかったけれど、居心地が悪かった。

 

 お腹が一杯で動きたくなかったので、外へ出た僕はベンチに座り、煙草に火をつけた。

人々の多くは旅行客なのだろうか。

先ほどと同じように、リラックスした、楽しそうな表情をした人々で溢れている。

僕は異国の人を眺めるみたいに彼らを見つめていた。

彼らの中にも、もしかしたら誰にも言えない秘密を抱えている人がいるのだろうか、と僕は思った。

でも、彼らの表情を見ていると、そんな人は誰も居ないように思えた。

せいぜい小さな嘘をついてきたくらいのものなのだろうな、と。


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