冬の観覧車(第一話)-2
バスがやってきて、僕はそれに乗り込んだ。客は僕以外居なかった。
よかった。今日は誰にも会いたくない。
それなら家で眠っていればいい話なのだけれど、そういう訳にもいかなかった。
僕は遊園地を目指していた。観覧車に乗りたかった。
もう、それ以外はほとんど何も考えられなかった。
バスが走り出し、僕はコートのポケットからサンドイッチを取り出し、齧った。
バスに揺られながら、少し眠っていたみたいだった。
炎の夢を見た。
まるで戦時中みたいに炎がどこからともなく現れ、全てを焼き尽くす夢だった。
背中に汗をかいていた。ひどく暑かった。
一体僕はどのようにして眠ってしまったのか、全然思い出せなかった。
小さな金魚がパクパクと記憶を食べてしまったみたいに。
眠るつもりなんて無かった。
自覚症状は無かったけれど、体は眠りを渇望していたのかもしれない。
眠れぬ日々が三ヶ月くらい続いていたから。
足元に、食べかけのサンドイッチが落ちていた。
僕はそれを拾い上げ、窓際へ置いた。流れる景色に視線を向ける。
さて、次は何について考えようかと思う。まぶたをこすり、小さく欠伸をする。
ドライブインのあるバス停で僕は降りた。
サンドイッチはちっとも食べられなかったし、
何かまともなものを食べるべきだと僕は思ったのだった。
観光スポットになっているらしく、駐車場には十数台の車が止まっていた。
巨大な周辺マップの前で老夫婦が何かを囁き合っている。
子供の手を引いた二十代後半くらいの母親が、白い息を吐き出しながら歩いている。
中年男性のグループが笑いながら煙草を吸っている。
僕は首をすぼめてドライブインの中へ入る。
皆楽しそうで、なんだかひどく場違いな場所に来てしまったような気がした。