小説・二十歳の日記-9
十二月四日 (晴れ)
昨日の雪も上がり、いい天気だった。会社を早退して、飛んで行ったよ。切符売り場で名前を言ったら、ニコニコして
「あぁ、従弟の方ね。」だってさ。無料で入れてくれた。少し不安だったから、お金は持っていったけどね。助かったぁ!
でもね、腹の立つステージだった。あんな酷い仕打ちを受けるなんて。
衣装替えの、ホンの数分間だけのことなのに。精一杯歌い上げている時、観客のざわめきは仕方のないことかも知れないとしても、さ。一曲の予定が、衣装替えに手間取ったらしく二曲目に入った(それはそれで、僕としては嬉しいけれど)。ところが急に出てきてそこで打ち切り。バンドが曲を変えてしまった。チコは深々と頭を下げてステージから消えた。
食事の最中、憤慨している僕に、優しく微笑んでいたチコだったょ。食事かい?もちろんおいしかった。一番のラーメンだった。チャーハンも食べたょ。それで驚いていた、その食べっぷりに。財布が心配だって、冗談も言われたりして。もう、最高!
嬉しいことに、この近くに来たら又一緒に食事しましょうってさ。
十二月十五日 (曇り)
今日は、いい日だ。チコからの手紙が届いた。24日のイブの日、仕事がキャンセルになったから、こっちに来てくれるってさ。一緒にイブを過ごしましょう、と。
素晴らしい!のひと言だ。
十二月二十四日 (晴れ)
何て辛い日だ。仕事、一体何だい?どうして仕事をする?生活の糧の為だったら、別に定職を持たなくてもいい。アルバイトでもいいじゃないか。
♪デカンショ、デカンショで、半年暮らす。あとの半年は、寝て暮らす。♪
大体、チコがいけないんだ。折角のイブだというのに、仕事をするなんて。しかも他県だなんて。それに最近は、ナイトクラブでの仕事を増やしたりして。酔っぱらい相手に、歌を歌っても仕方ないじゃないか。からまれたりもして・・・。
いや、わかってる。僕のわがままなんだ、チコには言えないことだ。君だからこそだ。
チコの休みは、平日ばかり。僕の休みは、日曜日。わかってはいた、時間が合わないことは。それを承知のことだった筈だ。いっそのこと、会社を辞めようか。チコに合わせようか・・。
この間、ホンのわずかな時間を共に過ごしはした。けれど、時間ばかりを気にしているチコは、嫌いだ。
「お正月はゆっくり会えるわよ。」そう言うチコ。
だけど、僕は正月にはこの町には居ないんだ。故郷に帰ってしまう。毎年、晦日におふくろが迎えに来る。といって、故郷に来てくれる筈もないチコ。僕だって、邪魔されたくない。
そして僕がこの町に帰ってくる頃には、チコはもう居ない。・・・どうしたものか。
そう言ったら、チコは困り顔をしくれるかい?それとも、ニッコリ笑って
「いいわよ、甘えてらっしゃい。」と、言うかい?
結局、不機嫌な顔ばかりを見せてしまった。きっと、嫌われただろう。わずかの時間を割いてくれたチコ。ごめんね、チコ。すぐに、手紙を出すよ、「ごめんなさい。」と。
後、五日で仕事も終わり。