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小説・二十歳の日記
【純愛 恋愛小説】

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小説・二十歳の日記-8

  九月十八日  (晴れ)

晴れ・曇り・雨・雪、他に無いの?無いだろうなぁ。
 
おゝ、神よ!

人を愛する時・・・、なぜ理性を失う?・・・・・しばらく、休もう。

(三) 

 十二月三日  (雪)

寒い朝だとは思っていたけど、まさか雨が雪に変わるなんて。初雪だ。

しかし驚いた。これが偶然というものだろうか。 でも、素敵な偶然だった。何とはなしに通りかった、あの市民会館。ベトベトの雪道のせいで、いつもと違う帰り道だった。その通用門で、たったひと時にせよ、僕にバラ色の夢を見せてくれたあの女性歌手に会えるとは。降りしきる雪の中、傘が無いらしく肩を震わせていた。

目が合ってしまった時、
「良かったら、入りませんか?」と、声をかけていた。自分でも信じられない程、自然に。僕にとっては、革命的なことだ。おそらく、耳たぶまで真っ赤になっていたろう。
その女性歌手は、僕のことを知るはずがない。あの、長文の手紙を書いた偏執狂だとは。

誰も彼女が歌手だとは知らないだろう。確かに雪の日には珍しい着物姿だった。前座で歌う歌手など、誰も覚えてはいない。

「今、迎えの者が来ますから。ご親切に、ありがとう。」

あぁ、この声だ。この声なんだょ、僕がひかれたのは。
その後、その女(ひと)は立ち去ろうとする僕を呼び止めてくれた。わかるかい?その時の僕の気持ち。天にも昇るとはこういうものだろう。確かに、暇つぶしの軽い気持ちだったかも知れないょ、でも、話ができたんだ。嬉しかった。もっとも、気が動転していてどんなお喋りをしたのか、あまり覚えていない。

芸能人の辛さなんかを話してもらえたような気がする。プライベートタイムがどうしても深夜になること。気の合う者の語らいや食事が、週刊誌では恋人として書かれてしまうこと。そんなことから事務所から止められてしまい、中々異性の友達ができない、と。もっとも、芸能人同士の場合は、お互い有名税だと思えるが、熱心なファンとの語らいの場を見つかるのが、一番辛いとか。

そうだ、最後に自分のことを話してくれた。

「でも、その点あたしなんかは楽なもの。歌手として認めてもらえていないから。スター歌手とご一緒させていただいても、一行も載らないのょ。付き人位にしか思われてないのネ。最近は、話し相手に引く手あまたなの。そのお陰で結構ステージに呼んで頂けるのょ。所詮、前座歌手だけれどね。」

あまりに自分を卑下したような口調だったから、つい口が滑ってしまい、僕があの長文の手紙の主だということを言ってしまった。最初、気まずい空気が流れたけれど、すぐに謝ってくれた。事務所の指示もあったけれど、やっぱり気味が悪かったって。

前座歌手如きの自分に、あれ程熱烈なファンレターが来るわけがないって。やはり、偏執狂だと思われていたらしい。あれ以上手紙が続くようなら、警察に届けたかもしれないって。最後は、二人して大笑いしたょ。

そうそう、チコという愛称を教えて貰った。幸子だから、チコだって。それに、住所も。事務所に手紙を送ると、警察沙汰になるかもしれないから。ヘッヘッヘーだ。

遠い道のりのはずが、すぐに着いたという感じだ。いや、交わるはずの無い道が突然繋がった、かな。もっと話をしていたかったけれど、迎えの車が来たから、終わりだ。握手してきたょ。冷たい手だったけれど、気さくな人だった。感激!

明日、少し離れたN市でショーがあるんだって。来てくれるなら、受付に話しておくからだってさ。そして六時には終わるから、お食事でもしましょうって。絶対に行くぞ!


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