小説・二十歳の日記-4
今夜はもの悲しい。断られたことがショックには違いないけれど、それよりも、独りよがりの夢に酔いすぎたことだ。・・・部屋の空気が重いせいもあるだろう。
無限の宇宙に、何かが覆い被さっている・・・ってか。
しかし、何のために手紙を書いた?あの人に、僕のことを”坊ちゃんですね”と、言わせる為なんかじゃなかった筈だ。
もっとも、こんな僕なんかと文通しても、何の面白みもない。話題といえば、小説のこと位だし。気の利いた言葉なんて、書けやしない。・・・だけど、答えてもらえなかったのが残念だ。
”歌っている時のあなたの心には、いったい何があるのだろう?”
どうして今日に限って雨なんだ!部屋の中まで、どしゃぶりだ。何もかもが歪んで見える、濡れて見える。・・・・・
七月十五日 (曇り)
今夜も蒸し暑い。天気予報だと、明日は雨らしい。いい加減に、梅雨も終わってくれないかなぁ。
最近、ホントにつまらない毎日だ。何にも身が入らない。わかってるょ。こんなことじゃ駄目だと思うんだょ。いつだって自分を鼓舞してる。だけど・・・。
ベトナムの帰休兵の人たちはどんな気持ちだろう。束の間の休息を日本で過ごして、そして又戦場に帰って行く。同世代のアメリカの若者が、ベトナムの戦場で戦っている。この現実だよな。アメリカとベトコン、どちらに正義があるのか、僕にはわからないけど・・。
戦争は、イヤだな。
『自作の一枚の絵を誉めてくれた人が、例え狂人だと告げられてもどうしても信じられなかった奴。信じたくないと言った奴。』
*芥川龍之介著「沼地」のエピソードから
僕だって、小説を誉めてくれた人が狂人だとは思いたくないし、よしんばそうだったとしても、きっと握手を求め、”万歳!”と叫ぶだろう。
七月十八日 (雨)
この雨、今日で三日目だ。ホントによく降る。梅雨の最後っ屁か?
だけど、どんなに降ろうと、もう晴れ晴れさ。
The moon shines bright,but dark in my heart! の、逆さ。
別にどうということはなく、唯何となくだよ。へへへ・・・。実はね、今日のこの雨に傘が無くてね、困ってたんだ。(小降りになったから 上がると思ったんだ。)で、雨宿りをしていたわけ。
そうなんだ!
「相合い傘で良かったら、どうぞ。」って、声をかけてくれたんだ。気さくな女性でさ、会社の事務員さんなんだ。すっごく話が弾んでね、楽しかった。僕自身、ビックリだよ。こんなに気楽に話ができるなんて。信じられないよ、ホント。でね、今度の日曜日、そう!明後日に映画を観ることになったので、ありまーす!
ちょっぴり不安ではあるけどね。どんな会話をしたらいいのか、わからないんだよ。うーん、誰か教えてくれーえ!