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月の裏側で逢いましょう
【初恋 恋愛小説】

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月の裏側で逢いましょう-1

―――月の裏側で待ってます―――

 そう綴った手紙を残した彼は、大人びた部類に入る少年だった。
 賢くて、優しくて、そして哀しい、そんな少年だった。


「中学校入学おめでとう!」

 桜咲く、入学の季節。

 知らない顔の校長を名乗る人が、作られた賛辞を並べるそんな時期。

 誰もが少しブカブカの学生服を着て、重たいスカートでひらりと回ってみたり、詰め襟にムズ痒さを感じながら新しい環境に浮かれるそんな頃。

 彼の姿は凜としていて、その落ち着いた風貌はなんだか新入生には見えなくて。
 私は新しい環境に浮かれる中の一人、まだ世界を知らない子供だったんだ。


「睦月さん、おはよう」

「うんっおはよう」

 秀麗で聡明で、何もかもが飛び抜けていて……、と友人に絶賛される彼が私の隣席になったのは苗字並びというただの偶然。
 だけど、毎日屈託のない笑顔で挨拶をする彼に私が心惹かれたのは、きっと必然なんだと思う。


「睦月さんって月好き?」

 中学校生活にも慣れてきた五月。
 窓から入る風が心地良くて、いっそ眠れたら気持ちいいのに。授業中そんな事を考える私に彼は話し掛けてきた。

「えっ普通かな」

「そっか」

「な、なんで?」

 急な質問に、舌足らずに噛みながら返す私に彼は笑顔で月が名前に入っているから、と答えた。

「初めて言われたかも、そんなこと」

「そう?僕は睦月さんの名前みてすぐ思ったけどね」

「どうして?」

「僕好きなんだ、月が」

 満面の笑みで答える彼に、一瞬心臓が跳ねた。自分の事ではないと分かっているのに、まるで私が愛の告白を受けているかのような錯覚。

「月が名前に入ってても好きになるとは限らないか……」

 頬が熱い。当たり前だけど、彼はそんな私などつゆ知らず、納得した様子で頷くだけだった。


「睦月!!」

 バチンと大きく背中から音がする。少し遅れてジンジンとした痛み、友人の癖は理解してるけどこれは毎回痛い。


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