月の裏側で逢いましょう-6
「個人情報を漏らしたの秘密だぞ、俺が怒られるからな!」
先生はそう言って、部活の顧問があると帰って言った。
冗談めかした言い方だけど、声色には優しさが混じってる。
きっと先生だって苦しいんだ。
帰り道の商店街。人の溢れる混雑した道。耳に五月蝿い筈の雑踏が何故か遠くに感じた。
知らなかった事実が一気に襲って頭の中が混乱してる、でも私は一つだけ理解した。
私は彼に会えない。それだけは理解した。
「好きでした」
初めての告白は、雑踏に消えて誰の耳にも届かなかった。
「お母さん、私早く大人になりたい」
帰宅するなり突然そう言って泣き出す私を、母は黙って抱き締めてくれた。
彼は大人びていた、でもそれは大人に成らざるを得なかった環境にいたからで。彼の心は月の裏側で、太陽の光という名の愛情を待ち望む少年のままだった。
「いってきます」
着慣れた制服をクローゼットに閉まって、今度はサイズのあった真新しい制服に袖を通す。
「高校生活頑張ってね」
母はそう言って背中を軽く押した。私はちょっとだけ笑ってうん、と答えた。
これから毎日通う道すがら私は空を見上げた。見えるのは燦々と降り注ぐ太陽の光。
両親に愛されて当たり前。暴力なんで受けたことがなくて当たり前。毎日笑顔でいれる、それが当たり前だった。
そんな私は太陽の光を浴びる月の表側だったんだ。
私はまだ世界のほんの僅かしか知らない子供なんだ。
だけど毎日私は知っていく。世界の綺麗な部分も、汚い部分も。
そして君の感じた思いも。
いつか私は君に会いに行くよ。
月の裏側で膝を抱えてる優しくて、哀しい少年を迎えに行くよ。
太陽になりたいだなんておこがましいかもしれない。けれど真っ暗な月の裏側で、僅かな光でも君に与えられるようになれたら、暖かい光で君を照らせるようになれたら。
そしたら、月の裏側で逢いましょう。
end