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月の裏側で逢いましょう
【初恋 恋愛小説】

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月の裏側で逢いましょう-3

「あれ?聞こえてた?」

「うんバッチリ、お母さんと喧嘩して朝まで口聞いてないってところまで」

「全部だね……教室内丸聞こえ恥ずかしい……」

 大袈裟に掌で顔を覆う私に、彼は少し笑った。

「いいんじゃないかな。喧嘩は仲がいい証拠だよ、でも早く仲直りしないと」

「うーん」

「お互い思いの丈をぶつけて喧嘩出来るってのはいいことだよ」

 その時、風が吹いた。
 湿った生温い風。

 彼は口を開いたけれど、その呟きは風に消されてしまった。

「ごめん今聞こえなくて。何て言ったの?」

「ううん、何でもないよ」

 彼はそう言って微笑んだ。どことなく寂しさを孕んだ微笑みだった。

 ねぇ、あの時本当は聞こえたんだ。
「羨ましい」って君が言ったこと。

 私はどう返せばいいのか分からなくて、聞こえない振りをしたんだ。

 あの時、もし言葉を返してたら何かが変わったのかな?



 暑さは限界で、皆今か今かと夏休みを待ちわびる七月。
 日々、同級生達がコンガリと日焼けするのに、彼の顔色は余り良くなかった。

「明日はやっと終業式だね」

「……うん」

 私が声を掛けても彼は上の空。返ってくるのは生返事だけ。
 結局彼は放課後になっても心此処にあらずの状態だった。

「はぁ……最悪」

 私はその日忘れ物をして、帰宅後にまた学校へ行く破目になった。時刻はもう夕刻、足音が響く廊下はいつもとは違い人の気配はない。

 教室の扉を引くと、そこには彼がいた。
 彼も私に気が付いて顔をあげる。

「あれ?どうしたの忘れ物?」

「そんなところかな睦月さんも?」

「うん」

 空が橙に染まっている。窓から差し込む夕日は教室内が飲み込まれたように眩しい。

 忘れ物である体操着を持って、そっと彼を見てみる。私の視線に気が付いたのか彼は顔を上げた。

「睦月さん紙持ってる?一枚貰ってもいいかな?」

「あっうん、いいよ」

 見つめていたことがバレバレで、少し恥ずかしくて私は慌てて鞄に入っていたピンクの便箋を渡した。


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