月の裏側で逢いましょう-2
「あんた喋ってるから先生に睨まれてたよ、てか!何盛り上がってんのよ羨ましい!」
「もう、かおちゃん痛いよ」
「ごめんごめん。でもホント羨ましい……てか顔赤いよ睦月?風邪?」
そう言って小学校からの友人であるかおちゃんは、私の額に触れた。
「えっと、大丈夫!太陽が当たってぽかぽかしたのかも」
私は慌てて手を振ってフォローする。まぁでもさっきの言葉にちょっとだけ優越感。
睦月の『月』は彼の好きな『月』。ただそれだけなのに何故だか心がくすぐったい。
その会話がきっかけで、私達はよく会話するようになった。
内容は大抵月のこと。新月、上弦、満月、下弦。月は私達に色んな表情を見せてくれる。
彼は嬉しそうに語ってくれて、私はそんな彼を見ると心が和らいだ。
いつだっただろう?私は彼に一度だけ聞いたことがある。
「どうして月が好きなの?」
彼は笑顔で答えてくれた。
「羨ましいのと、似てるからかな」
「羨ましいのに似てるの?」
「うん。月は太陽の光を受けてあんなにも綺麗に輝いてる、それが羨ましいんだ。だけど、僕は月の裏側だから」
「月の裏側?」
「そう、いつか太陽の光が当たることを待ち望む月の裏側」
そう言って彼は明後日な方向に顔を向けたから、私には彼の表情が見えなかった。
ねぇ、あの時君はどんな表情をしてたのかな?
充分に打ち解けた六月。
彼は衣替えの季節になっても、長袖のままだった。
じめじめと湿った梅雨の時期。そんな時も涼しい顔をした彼に「冷却機能がついている」なんて可笑しな噂も流れた。
「睦月は信じる?」
「まさか!」
勿論私は信じる訳もなく。
「じゃあ確認宜しく!」
「へ?」
なのに、かおちゃんに母親との喧嘩の愚痴を話していた筈なのに、何故か彼に確認するという使命を押しつけられた。
「長袖暑くないの?」
彼に近づいて声を掛ける。
「大丈夫だよ、睦月さんこそさっき家族喧嘩したって話してたけど大丈夫?」
話を逸らされたことには、その時は気がつかなかった。