月蝕-1
月蝕
「月にはうさぎが住んでるんだよ。」
「あんた,頭いかれてるね。」
「ロマンチストなだけだよ。」
なにがロマンチストだよ…
あんたがどれだけ女ったらしかなんてあたしが一番知ってるのよ?
「で,何の用なの。」
手は休めない。あんたにあたしは振り回されない。
あたしの掟。
「うさぎさんは月にどれくらい繁殖しているのかなぁって。」
下世話だぞ,このヤロウ!
「……あんたの頭の中のうじ虫よりはいないんじゃない?」
「じゃあ少ないねぇ。」
あぁ…もう何も言う気がしなくなってきた。
「ねぇねぇ。」
「何よ。」
「うさぎはさ,月にどうしているんだろうね?」
「そりゃ地球にいられなくなったからじゃないの?」
どーでもいい。
「…しあわせかなぁ?」
「追放されたんなら不幸せじゃない。」
あたしにはやることがあるのよ。
早く帰ってよ。
「…ねぇ?月のうさぎになりたかったなぁ。」
「あぁ,そう。」
なんだこの話のオチは。
「用がないなら…」
月が陰る。
月が闇に喰われていく。
「……仲間から追放されて2人になりたい。」
「でも追放先すら安住の地なんて」
「ないんだ。」
「だから所詮地球で生きるしかない。」
「…それだけ。」
そう言ってあたしから離れていく。
「でもさ,欲しいものは手に入れたい。」
「いつも狙ってるから。」
そんなの知らないよ。
あんたなんかいつも女とイチャついてるんだから。
知らない。
こんなこと言われたって嬉しくなんてない。
あんたのことなんて信じない。
だから
キスなんてしないでよ。