『異常気象』-3
「仕事が忙しかったのは事実だし、それでお前となかなか会えなかった事については、今でも謝るつもりは無いから。」
「………。」
毎度の事ながら偽りも陰も無い言葉。
紛れもない、彼の本心なのだと思う。
「いい加減に仕事片付けたら、そういう奴なんだ、って評価が下がる。俺は将来の為にも、それは避けたかった。」
駅の改札口は、週末を共に過ごそうというカップルの待ち合わせ場所となっていた。
傘を閉じた彼を見たら、その顔はあたしの言葉を待っているようだった。
「…傘、入れてくれてありがとう。」
彼のスーツは、左側だけ色が濃くなっていた。
「ごめん、あたし入れたせいで。」
彼は、別に、と一言答えてからあたしと向かい合った。
「…将来って、俺のじゃなくて。」
「……?」
「お前との、っていう将来だったんだけどさ。」
「…………え…っと……?」
彼は苦い笑みを浮かべていた。
そしてそのまま、あたしの反応を待っているようだった。
駅の構内を行き交う人々の立てる音が、ものすごく遠くに聞こえる気がした。
「…まぁ、こんな風に言う予定じゃなかったんだけど。とりあえず…言っとく。」
一旦は閉じた傘をもう一度開いて、その水滴を弾いている彼の横顔の表情は読めない。
でも、相変わらずあたしの言葉を待っている。
「……うん。」
とりあえず頷く。
それでもまだ、彼は黙ってあたしを見つめている。
「わ、分かった。」
とりあえず答える。
と、彼がふっと軽く吹き出したように笑った。
「……何よ。」
「や、別に。……混乱してない?」
「そ、そりゃちょっとは。」
「だろうな。」
笑いながら自分の定期券を指先でいじる彼。
「…さっきのコ、あんたに気があったみたい。」
「さっきのコ?…あぁ、うん。知ってる。」
「そうなの。」
うん、と答えて未だ雨の降る空を仰ぎ見る彼。