祭囃子の夜-3
「あっ。も、もう少し、優しく……そんなに強くしたら……」
「ご、ごめん」
やはり彼もこうしたことに不慣れなのか、私の困ったような声に謝ってくる。
何度かの挑戦の後、少しずつ慣れてきた彼の動きがスムーズになる。器の中でそれは蠢くようにしてピチャピチャと音を立てた。
「じゃあ、こんなのもどうかな」
今度は彼氏が趣向を変えて、小さな穴を広げるようにかき回す。
「ぅん……そこ、だめ……そんなにしたら、壊れちゃう」
「もっと、奥が良いんだろ?」
激しさに狼狽するが、彼氏は意地悪く言って更に奥を掻き乱す。
上り詰めてゆく感情。得ようとする快楽に、二人の鼓動が大きく音を立てた。ドクッ、ドクッ。と言う音が、今にも周囲に聞こえそうだ。
そして、絶頂に達した瞬間。どこかで、花火が大輪の花を咲かせた。
トボトボと、人が疎らになった夜道を歩く二人。また繋ぎあった手が気持ちいい。
少し俯き加減の彼女。怒っているのか。
「ごめん……。ちょっとはしゃぎ過ぎちゃって」
様子を伺いながら謝るが、彼女は何も答えない。ただ俯いたまま、口をもごもごとさせている。
「?」
それを聞き取ろうと、ソッと下から覗き込んだ。そして、聞こえてくる小さな声にギクッと顔を強張らせる。
怒ってはいない。けれど笑ってもいない。俯く彼女の顔は、恥ずかしそうに歪んでいた。
「乱暴すぎるよ……あんなことしたら、当たり前でしょ」
彼女の言葉に、思い当たる節はある。確かに、少し乱暴だったかもしれない。
けれど、彼女が怒っていない理由も分かっている。
彼女の手から下がる二つの袋。
一つは、大きなヌイグルミの入った紙袋。もう一つは、二匹の金魚が泳ぐビニールの袋だ。
「ごめんっ!」
もう一度、今度は正面に向き合ってちゃんと謝る。
「もう良いよ。こうやって、金魚ちゃんもとれたし、くじ引きの景品も貰えたからね」
やっと顔を上げてくれた彼女が、いつもの優しい笑顔を浮かべる。
何度かの挑戦でどうにか掬えた金魚と、乱暴に箱を掻き回して手に入れた景品のヌイグルミ。
「今日は、楽しかったよ」
お礼でもなく、偽りでもない本当の気持ち。
「私も……。また、来年も来ようね」
「うん」
二人は、向き合ったまま笑い合う。
そして、どちらからというわけでもなく、不必要な言葉を交わすことなく口付けする。遠目には男女の区別も付かぬ夜、一つのシルエットがそこにはあった。
それを祝福するかのように、消え逝く祭囃子がどこからか響いてくる。
――祭囃子の夜―― 完