細糸のような愛よりも-11
第四話 おかしくなるくらい滅茶苦茶になって
「……あッ……くぅ……ッ」
掠れを帯びた喘ぎは、およそ自分のものとは思えない。
女の子のように上ずった自分の声を聞くのは、何ともむず痒いものだった。
それでもこの喘ぎを抑えることなどできなくて。
俺は後ろから奴に突かれ、喉を仰け反らせていた。
「んうッ、あ……ッく……!」
「気持ちいいか?」
荒い息を交えながら、綿貫が俺の背を撫で、聞いてくる。
「分かって……だろッ」
なげやりに言うと、綿貫は喉の奥で低く笑った。
「う……あッ、ああッ」
ベッドに肘ついた俺の腕を、綿貫が掴む。
そして俺の身体をがくがくと揺すった。
「やッ、あッ……止め……! 声、抑えられな……ッ!」
「そういう声が聞きたいんだって」
言って笑い、綿貫は奥まで突いてくる。
肌と肌が叩き合う音は、汗のせいで大きく響く。淫猥な水音と共に俺の耳朶を犯す。
「やッ、――――ッ!!」
最奥を突かれ、声にならない声を上げる。
瞬間、俺は堪らず射精し、真っ白なシーツを汚した。
どっと気だるさが押し寄せ、腰を上げたままベッドに突っ伏す。
「はあッ、はあ……ッ」
「俺も、イキそ……」
綿貫もまた上ずった声で言い、腰の動きを速める。
綿貫は俺の髪を引っ掴んで顔を上げさせると、無理やりに俺の顔を後ろへ向けさせた。
「はあッ、はむ……ん」
濡れた唇が俺のそれに吸い付く。
唇を割って入った舌に、俺は自分の舌を絡ませて、激しく貪るようなキスをした。
「あ、あ、うあッ……んッ!」
そして唇を離し、再び激しく俺の中を突いてくる綿貫。
深く、浅く、浅く、深く、深く。
やがて綿貫が低く艶かしい声で溜息をついた。
俺の中で奴のものが爆ぜるのを感じ、俺もまた息をつく。
――張り詰めていた糸がぷつりと切れたような感覚。
ただ快楽の波だけが、ゆっくりと俺をさらう。波に揺られ、流れ着く先は一体どこだろう。
俺は静かに息を吐き、目を開ける。
薄暗い中、天井が間近に迫って見える。
傍らには仰向けで紫煙を吐く綿貫の姿。
俺は喉の渇きを感じながら、シーツの波間に顔を埋めた。
そして顔を上げ、横向きになって寝転がると、俺は綿貫に声をかけた。
「綿貫は……どうしてこんなことをしてるんだ?」
「こんなこと?」
「………」
何となく黙り込んでしまった俺を、綿貫は笑った。
「男とセックスしてること? それともセックス自体?」
俺の質問が分かったらしい。
「……両方」
「気持ちいいから」
綿貫は考えることなく言った。
「愛のため、じゃなくて?」
「何? お前は愛を持ってヤッて欲しいわけ?」
「……止めろよ、気持ち悪い」
俺は顔を歪めて首を横に振る。
思考も視界もぼんやりとした中で、俺は左手の小指を見つめていた。
「ただ――愛のあるセックスって何なのかなって思って」
「知らないね、そんなの」
「綿貫は『小指の赤い糸』とか信じないだろうな」
「可愛いね。お前は信じてんの?」
「俺は……」
一体、どうしたことだろう。
奴に聞かれたその瞬間、俺は毛利の顔が思い出せなかった。
あんなに愛して抱きしめた彼女の顔が、まるで磨りガラスで通して見たようにぼやけてしまっている。
そして俺はふと自嘲気味に笑い、確信した。きっとこれが、綿貫の問いに対する答えなのだと。
質問には答えないまま、俺を不思議そうに見やる綿貫に向かって言った。