細糸のような愛よりも-10
俺は綿貫なんぞにこれっぽっちだって恋愛感情は抱いていない。
ただ欲しいのは――奴から与えられる快楽。それだけなんだ。
だから、麻木が奴のアパートでその快楽を享受しているのかと思うと、彼女が妬ましかった。
こんなことを思う自分が恥ずかしいし、悔しいと思う。
けれど、どうしようもない。
(俺……何なのかな)
本当は、不本意な筈なんだ。男に抱かれるなんて。
それでも俺の身体は綿貫を求めてやまない。
(……どうしちまったんだろう)
そう口の中で独りごちた。
「絹川君」
不意に後ろから名前を呼ばれ、俺は振り返る。
そこには些か沈んだ面持ちの毛利が立っていた。
「毛利……」
俺は苦い顔をできるだけ押さえ込んで、毛利の元に駆け寄った。
毛利は微かに笑みを見せ何かを言おうとしたが、何も言わずに黙り込んでしまった。
少しの沈黙の後で、彼女が躊躇いがちに口を開く。
「あのさ、あの……今日部活の後、暇?」
「今日?」
今度は思わず苦い顔を浮かべてしまった。
毛利は顔を俯かせて、テニスラケットをぎゅっと握り締めていた。
「どうしても、だめ?」
「今日は、ちょっと」
俺は罪悪感から、彼女から視線を逸らす。
――本来、優先させるべきはこちらの筈だ。
けれども俺は――
「ごめん、また今度な。本当、ごめん」
「ん、いいよ。急に呼び止めてごめんね」
俺の言葉に、毛利は顔を上げるとそう言って笑った。
しかしその笑みはどこか哀しげで――思わず罪悪感が募る。
毛利とは、最近はずっとこんな会話しかしていない。
二人で遊びに行くことも少なくなった。
悪いとは分かっていても、どうしようもなかった。
俺の心は奴に捉われている。
その証拠に、走り去る彼女の背中が見えなくなると、俺の頭はもう既に今日の夜のことを考えていた。
彼女に対する後ろめたさを、僅かに心の隅に残しながら。