月夜×殺人犯×二人きり-8
かくして男は自首をする為に警察署の前にやって来た。
もう何日も、一睡もしていなければ食事すらも取っていない。
白いどころか青くもある顔色に、体力は朽ちてもはや気力だけで支えている体。傍目から見ても今にも倒れそうな男に、一人の警察官が声を掛けてきた。
「大丈夫ですか?」
「あの……俺、人を殺しました」
一度口にしてしまうと、枷が外れたように止まらない。男は壊れた蓄音機のように呟き続ける。
「お前がやったんだな?」
男に負けない程に真っ青な顔になった警察官に個室へと押し込まれ、詳しく事情聴取が行われた。男が伝えたおおよその住所に警察は駆けつけ、現場検証が終わる頃に男は改めて確認を取られる。
「はい」
それから男は淡々と語り続けた。
強盗をしようとした経緯と、それからの流れ、そして二日程地下に籠もっていたことも。
全てが語り終わる頃には、一時間程時間を要したけれど男は全てを吐き出せて息をついた。
警察官は元より顰めっ面だったが、男の話しが終わる頃にはより額に皺が刻まれた。
「それで終わりか?」
「はい、そうですが……?」
「子供を殺したのを抜かしている」
子供という言葉に、少女の姿が男の頭に浮かぶ。
「現場からは母親と子供の死体が見つかっている。子供の死体にはお前の指紋がついた包丁も刺さっていたぞ。嘘をついたって無駄だからな!」
警察官の話しでは、母親が殺された数時間後にその家の子供は殺されていた。
直接の死因は口をガムテープで塞がれたことによる窒息死だが、また暫く経った後に更に包丁を突き立てられていた。
そして家は荒らされ大方の金目の物は全て奪われていたという。
「死亡推定時間は、母親が死んでから丁度一日経ってからだ。包丁にはお前の指紋がべったりとついている、言い逃れは出来んぞ!」
おかしいと男は思う。その時はまだ地下に篭もっていた筈だからだ。
少女だって、アレが幽霊でも無い限りその時間には生きている筈である。
包丁は少女に預けた。それに金目のものどころか、あの家からは何一つ持ち出してはいない……
「あの、一つ聞いてもいいですか?あの家の子供は何人ですか?女の子が一人いませんか?」
「あぁ?何を言っている。あの家は父親と母親それにお前が殺した五歳の男の子だけだ」
その言葉に、男は漸く理解して、うなだれながら呟いた。
―――あの少女も、殺人犯だったのか――――
月夜に殺人犯が二人きり
end