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月夜×殺人犯×二人きり
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月夜×殺人犯×二人きり-4

「……分かりました」

 テレビで見た時には、そんなに上手く行く訳がないと思っていたが、案外上手くいくものだと男は女の姿を見ながら、そんなことを思いながら息を吐く。

 女が家の奥に消えると、男は土足のまま家へ上がる。見たこともない豪華な調度品、品よく装飾された室内。
 男はそれを眺めながら落ち着きを取り戻す。

 何か威嚇になるものをと見渡せば、ダイニングが見えた。細めの包丁を手に持つと廊下が軋み足音が聞こえた。

「今から警察に通報しますよ!早く出て行きなさい!」

 戻ってきた女の手には電話の子機。
 恐怖など滲まない凛とした口調は一瞬男を怯ませる程であったが、男の手に握られた包丁に女の口調は明らかな動揺を見せた。

「は、早く!出て行って!包丁を捨てなさいっ」

 女の瞳が激しく揺らめく。
 電話は外に繋がっている様子はない。
 それはただの油断なのか。それとも未来ある若者への優しさなのかも知れない、けれどそれは男の知り及ぶところではなかった。

「……金を出してくれれば……何もしません」

 男の言葉は女には届かない。

カタンッ

 その時、小さな物音が男の耳にも女の耳にも届いた。

 男は何の音かと、音の出所を探る。
 女は音の出所を知っているのか迷うことなく叫んだ。

「動かないで!!」

 先程の冷静さは何処へ消えたのか、女は酷く狼狽し見る間に血の気が引いていった。


「Y's room」と書かれた小さな板の掲げられた部屋が見えた。音はそこが出所だった。

 アルファベットは小さく可愛らしいフォントで子供の部屋である事を男に教えてくれた。

 視線だけをその部屋へと移す。危害を加えるつもりは男には毛頭ない。
 けれどそれを女に信じろと言っても、それは無理な話だった。

「やめてっ!子供には手を出さないでっ!」

 女が叫び、男に向かって走る。
 体ごと突進して来たと理解した時には、女は男の体にのし掛かっていた。
 女の瞳は男の手にある包丁に釘付けだ。女の体は細く軽い。けれど如何にしても包丁を掴もうと、暴れる力は尋常ではなかった。


『母親ってのは強いんだよ』
 男は無我夢中に女を引き剥がそうとしながら、母親が初めて倒れた日の事を思い出した。
 幼く不安で涙の止まらなかった男に、母親は精一杯の笑顔でそう返した。それが痩せ我慢である事は、それから四年後に発覚したけれど。


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