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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第24章-9

「これは…」

間違いなく、その紋章は龍族のものだ。

「この時勢に、おれが龍の巣に見張りもつけずに放っておくと思ったのか?」

風巻が青嵐の後ろから歩み出て、跪いたまま動けないでいる瀛の斜め前にしゃがんだ。

「剣を出せ。我らが一人ひとり、青嵐から賜った剣だ」

瀛は応じなかった。黙ったままの瀛の腰から、風巻は剣を抜いた。

「―血だ。」

「龍の血は拭えねえ。その血は龍の降らせた雨でしか注ぐことが出来ないからな…知らなかっただろう、瀛」

瀛の指が、毛足の短い赤い絨毯をつかんだ。

「今夜は雷が近い。だから龍の使いが来ることは、皆に知られている…だが、本当のことを報告されちゃあ困るんだよな、え?せっかく龍の巣を破滅に追い込んでも、おれが援軍を出したら、計画が水の泡だ。違うか!!」

沈黙が降りてくるまでには暫しの時間を要した。青嵐の咆哮は狭い部屋を駆け巡り、ゆっくりと消えていった。

「瀛…それは、まことか…」

虎落が目を見開いて瀛を見た。冷たく見下ろす青嵐の視線に、噛み付くように瀛が顔を上げた。

「私のしたことは、間違いではない!」

「間違いではない、だと?お前のせいで、何人の龍が死んだ!お前は味方を澱みに売りやがったんだぞ!」

ははは…と、瀛はさもおかしそうに笑って、ゆらりと立ち上がった。

「百にも届かぬ死人に顔色を変えるのが青嵐の頭首ともうされるか?それならば、我らの血塗られた歴史はどうだ!振り返れば、累々たる死者が、我らが足元に手をのばしているというのに…青嵐、それは、偽善だ!!」

「瀛、口を慎まんか!」

虎落を手で制して、青嵐は先を続けさせた。

「こうでもしないと龍には澱みの恐ろしさがわからない…だからこの俺が教えてやるのだ!自分たちだけの楽園で安穏と暮らしていながら、同じ神族の滅亡に見て見ぬ振りをするなど、青嵐会が許してよいはずが無いではないか!こうでもしなければ、青嵐は滅ぶ、狗族は滅ぶ、神族は、妖怪は、国津神は滅ぶ!澱みの跳梁跋扈を許すことになる!そして国は荒廃するのだ、青嵐、目も当てられぬほどに!」

頼り無い足取りで、瀛は立ち上がった。

「…いつかこの日を省みて…俺のしたことは正しかったのだと思う日が来る」

青嵐は答えず、風巻が瀛の腕をつかんで別の部屋の扉を開けた。青嵐は虎落に言った。

「爺、鎧を持ってくるように言ってくれ」

「そもそもこの計画は、そもそもが龍からの申し出よ!澱みの何たるかも知らぬ愚か者めら…!俺が澱みの力の程を教え、やつらの味方であると嘯(うそぶ)いた途端、顔色を変えて澱みと協力するにはどうすればいいか聞いてきた!救いようも無い愚か者共だ!」

青嵐は、遠ざかる声に向って言った。

「ならばお前もそうだ、瀛!澱みに踊らされた、愚か者の一人に過ぎねえんだよ!」

彼は音もなく閉まったその扉を暫し見つめてから、誰にともなくつぶやいた。

「そうだ…」

その言葉を聞いたのは、鎧を手にして彼の傍にやってきた、老いた待従一人。

「俺たちは皆…愚か者なんだよ」


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