投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 499 飃(つむじ)の啼く…… 501 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

飃の啼く…第24章-22

++++++++++++



血にまみれた彼女は、大きな実験体2体を相手に戦っていた。呼吸は落ち着いている。目はしっかりと、相手の挙動を捉えている。

飃が、研究者たちの張ったふざけた結界を―力に任せて―畳ませてから、彼らの目を覆うものは無くなった。飃は研究者たちに、最後までこの戦いを見ることを命じ、自らも黙って彼女の戦いを見た。

光に人格があったら、彼女のような人間になるのだろう。自分の中の何かを削ってでも、闇を照らさずにはおれない。夜の闇でも、暗黒でも、奈落の底の闇でも、彼女が降り立てば、たちどころに暴かれる。真っ直ぐに進み、ふとした瞬間、信じられないほどの美しさを見せる。激しい熱を発することも出来れば、心慰める灯火となることもある。

さくらが猛々しい声を上げ、物言わぬ実験体が、また一つ倒れた。振り向きざまに、もう一つの実験体の胸を貫き―剣を抜いた。

顔にかかる血を、拭うでも避けるでもなく、彼女は最後の一体が倒れるまで、飃たちに背を向けたまま立ち尽くしていた。

見つめる狗族たちは言葉をなくし、おのおのが、何かに震えていた。恐怖か、感銘か、或いは後悔か。飃やさくらには分かる由も無い。



+++++++++++++



頭がぼうっとしていた。血の匂いはあまりに濃くて、身体についた血は骨まで浸透したようだった。

「ありがとう」

小さな声がしたほうに目を向ける。

横たわる実験体たちの身体に比べると、とても小さな体を半ば起こして、彼女は言った。

「ありがとう。彼らの囚われた心と、魂を解き放ってくれて」

彼女が、次になんと言うかはわかっていた。見上げる瞳に痛いほど宿っている。期待が。

「どうか、次は私を―」

「やだ!」

悔しくて、体中がじんじんする。彼女は困ったように間をおいてから、もう一度、言った。

「お願いです」

「いや!」

彼女は私が握り締めた手に、自分のを重ねた。とても儚げに、振り払われるのを怖れるように。


飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 499 飃(つむじ)の啼く…… 501 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前