The kiss and the light-23
+++++++++++++++
「何でお前が泣くんだよ」
飆はうろたえていた。多分彼以外に見た男は居ない中谷の泣き顔。見るのはもちろん初めてのことだ。そして、下手をするとこれを見るのは最初で最後になるのかもしれない。もし、彼女の泣き顔を見た男が直後に抹殺されるのだとしたら。
「なんであんたは泣かないのよ」
泣いている時でさえ腹立たしげな彼女は、勢い良く息を吐いてぐわっと涙を拭った。酒が入ると泣き上戸になるのか、目は赤く腫れ、鼻も若干赤い。
「別に、自分のことだ。俺は大人だし、蹴りくらいつけてるよ」
「嘘つくな」
「はぁ?」
間の抜けた返事を返す。
「通りで必死になってるわけよね、柄にもなく“頼む”とか言っちゃってさ」
「何がだよ、はっきり言えよ」
中谷は酒のせいで少し上気した頬に杖をついて、したり顔で笑った。
「あんた、罪滅ぼしがしたいのね」
「だったら…なんだよ」
別に、といって彼女は手の中の空のビール瓶を弄んだ。
「あたしは、免罪符代わりってわけなのね、って」
「なんだよ、それ」
中谷がテーブル越しに手を伸ばし、まだ残っている飆のビールを奪ってあおった。
「あたしを救いきれたら、ちょっとは気が済むんでしょ。あの子を救えなかった罪滅ぼしになるって事」
「そんなんじゃない!」
飆は声を荒げた。
「悪いことだなんていってないわよ。ただ、人間らしいところがあるんだなぁって思っただけ」
そうとう酒が回ったのか、それとも先ほどの涙が後を引いているのか彼女の目は潤んでいた。その目が、知らずに立ち上がっていた飆を見上げて、また伏せられた。
「そんなんじゃないなら、何?」
急に居心地が悪くなって、座ろうにもイスは倒れてしまったし、それを拾おうと屈むのは無様だし…と迷っている飆に、ゆっくりと彼女が言う。