光の風 〈回想篇〉前編-9
「何でか急に魔物が引いて助かったけど、あれはカルサが何かしたのか??」
「いや。」
カルサの答えは早かった。
「おそらく、リュナが捕まったんだろう。」
「リュナが!?」
カルサは頷いた。貴未は驚きから口が開いたままになる。
「連れていかれたのか、自分で行ったのかは分からないが…きっかけはそこだろう。」
「何で…。」
「今回の目的はリュナだった。おそらく、そういう事なんだろうな。」
貴未の言葉を遮り、カルサは告げた。厳しい表情は焦りを表わしているようにも見える。結局また後手に回ってしまったのだ。
黙り込んでしまった貴未も頭を抱える。しかしそれも少しの間の事で、貴未は再びゆっくりと顔を上げた。
「魔物が引く少し前、聖を見た。」
全員が息を飲んだ。
「血塗れの姿で、腕に紅奈を抱えて。なんか様子がおかしかったように見えた。」
「様子が?」
「消える、いなくなる、なんかそんな雰囲気だった。」
消える。
誰もがその言葉を心の中で呟いた。
「あの時、多分あいつはオレに気付いてた。」
遠い目をしてその瞬間を思い出す。
遠くの方、城の、もう魔物によって突破された辺りに聖はいた。扉が豪快に壊され、さらに壁に穴が開き大きな入り口がそこには出来ていた。
砂埃が舞い、本来ならはっきり見える範囲なのにぼやけてしまう程の視界の悪さ。しかし馴れ親しんだ相手、そこに立っているのは聖だと貴未には確信できた。
確かに聖もこちらを見ている、二人は少しの間互いを見つめ合い動かなかった。やがて聖は方向を変え、さらに視界が悪い方へと姿を消した。聖と何度も名を叫ぶ貴未の声に、彼は一切反応を示さなかった。
「そうか。」
一連の流れを聞き終えたカルサは、自分の中で処理しながら呟いた。
「その時は二人は生きていたんだな。」
カルサの言葉に少し俯き加減だった一同は皆顔をあげた。