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光の風
【ファンタジー 恋愛小説】

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光の風 〈回想篇〉前編-8

「記憶を失い、特殊な力を持った為に、こんな所にまで巻き込まれた。あいつは自分の居場所を失っている。」

そう呟いた後、カルサはマチェリラの方に視線を向けた。それに気付いたマチェリラは、何だろうという気持ちで無意識に短い瞬きをする。

「マチェリラ、日向を見た時に何か感じなかったか?」

「日向?古の民か、そうでないかって事?」

カルサは頷いた。マチェリラはそれを受けて応える。浅くため息を吐いて、ゆっくりと首を横に振り、重く吐き出した言葉だった。

「判断できないの。」

マチェリラの言葉に思わず反射的に身を乗り出す。それはカルサだけではなかった。

「古の民のようで、そうでない。現世の人かと言われれば、そのようで、そうでない。」

カルサは眉間にしわをよせ、厳しい表情を浮かべた。長いため息を吐く。

「不思議な奴、それで終わればいいんだけどな。」

貴未の言葉にカルサは顔を上げる。視線に気付いた貴未は微笑み、カルサもつられて微笑む。



「日向はまだ、火の力を使いこなせていないようでした。しかし、短時間であそこまで操れるようになるのは…正直驚きです。」

めずらしく瑛琳が発言を始めた。

「精霊がいるからなのか、元寄りの資質か。記憶を失っているというのも。」

カルサの視線を強く感じ、瑛琳は口を紡ぎ誤るように軽く礼をした。カルサは首を横に振り、口を開いた。

「誰の仕業かは予想がつく。」

怒りを表に出している。内に収める事ができない程の強い感情。カルサが言った言葉が一体何の事をさしているのか聞きたかったが、あまりの様子に誰もが口を開けなかった。

少しの間続いた沈黙を終わらせたのは貴未だった。

「あの後、オレは魔物の侵入を防ぐ為に西門に行ったんだ。着いた時にはもう、戦いが始まっていて、とにかく数が多いし確実に倒していく事に必死だった。」

自然と皆の視線が貴未へと集まる。ぼろぼろの服、一目見ただけで貴未の戦いが分かった。

「全部で二回、リュナの風の援助があった。そのお陰でオレ達は大分被害が少なくすんだと思う。」

リュナ、その名を聞くだけでカルサの手に自然と力が入る。その仕草に誰もが気付いていた。

「それでも、魔物が次から次へと後を絶たなくて。オレ達は必死で向かってくる敵と戦って、他も気になってたんだけど…そこから動けなかった。」

こちらに不利な持久戦、絶え間なく押し寄せる敵を迎え撃つのにも限界がある。少しずつ力尽きていく者が現れ始め、分が悪くなってきた時だった。

 カルサの結界で大半の魔物が弾き飛ばされ、中にいた魔物も苦しみながら倒れていく。

「中盤くらいにカルサが結界を張ってくれただろ?あの時は本当助かったよ。さすがのオレもヤバいと感じてたからさ。」

苦笑いしてみせた貴未の姿は恐怖を背負っているようにも見えた。両手を見つめ、握ったり開いたり感覚を確かめる。

「今生きてるのが嘘みたいだ。たくさんの人が死んでいった。」

目を開けていても鮮やかによみがえる記憶。脳裏に焼き付いて離れない惨劇は貴未の体を震わせた。


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