光の風 〈回想篇〉前編-6
「あいつらが現れた。」
貴未は思わず息を飲んだ。あいつら、それだけで誰の事を指しているのか分かる。
十中八九そうだろうと分かっていた。それでも顔つきは厳しくなる。あれだけの魔物を動かし、この城に攻め入った人物は確定した。
「詳しくは後で聞くよ。オレからは聖の事だ。」
貴未の出した報告に、誰もが顔を起こし貴未を見た。疑問符を口にしたのはカルサ。
「紅奈も聖も行方不明のままだ。聖がどうかしたのか?」
貴未はゆっくりと視線を落とし、そしてナルの方を見た。次にカルサに視線を戻す。
「話が長くなりそうだ。とりあえず座ろう。」
貴未はそう言うと階段まで歩き、最上段に腰掛けた。カルサも横に座り、千羅は途中の段に瑛琳とマチェリラに座るように薦めると、一番下にあぐらをかいて座った。数段しかない階段だが、距離を感じた貴未は少し下りてマチェリラの少し上に座る。二人は顔を合わせ微笑む。
カルサもまたそれに続いた。自然と近寄ったことで絆を感じた一同は自然と微笑んだ。しかしそれも束の間。
貴未を始め誰もがカルサに視線を集める。
「何から話せばいいか…。」
カルサが口を開いた。少しの沈黙の後、再び話し始めた。
あれだけの騒ぎは換算すると、ほんの一日の出来事だった。一瞬にして全てを燃やしつくす炎のような襲撃。
「ちょっと待った。」
ふと疑問が浮かび、貴未はカルサの話を止めた。
「カルサ、日向はどこ行った?」
カルサの表情が、顔つきが変わった。
「オレが逃がした。」
カルサの言葉に貴未はさらに疑問を持つ。
「逃がしたって、何の為に?」
「あいつの命を守るために。」
カルサの言葉はあまりに直球すぎて貴未には理解が出来なかった。正直、カルサと日向が話しているのを見たことがない。
「なんか、カルサが日向にそんな気を遣うとは…意外だな。」
貴未の言葉にカルサは目を丸くする。
「私も、それは意外に思っていました。」
続けた千羅の言葉に瑛琳も、マチェリラも頷いた。周りのそんな反応に意外だったのがカルサという、不思議な状況が出来ている。
「そんなに意外か?」
恐る恐る聞いた言葉に皆が勢揃いで頷いた。
「私、カルサトルナスは日向に興味がないんだと思ってた。」
マチェリラの直球ストレートはカルサを直撃した。