光の風 〈回想篇〉前編-5
「ナル?」
貴未はカルサに視線を戻した。カルサは重く頷き、その表情は暗い。
貴未は思わず走りだし、ナルの所へ駆け寄った。マチェリラはその場から動かない。
「マチェリラ、知っていたのか?」
マチェリラは応えずに目を逸らし俯き加減に伏せていた。彼女は何か知っている、そう感じた。
「ナル!」
貴未の声が聖堂に響く。いくら体を揺らしても、呼び叫んでもナルは以前のように微笑んではくれなかった。
「ナル!ナル!!」
声が次第に小さくなっていく。もう冷たいナルの手を取って貴未は自分の元に引き寄せた。
「貴未。」
背中にカルサの声を感じる。貴未は手で涙を拭い振り向いた。
「ナルが自分の死を予感して残した手紙がここにある。」
貴未は勢い良く立ち上がり、目の前に差し出された手紙をゆっくりと手に取った。カルサを見る、彼は頷いた。貴未はナルの方に視線を戻した、やはり彼女は動かない。
再び溢れそうになる涙を堪えて手紙を開いた。目の前に広がるのは見慣れた綺麗なナルの字、しかし感傷に浸る間もなく、そこに記されていたのは驚くべき内容だった。
読み終えた貴未は何を言う訳でもなく、ただ脱力した。信じられない、そんな表情をしている。
「オレも…その手紙はさっき読んだばかりだ。」
貴未は顔をあげ、カルサを見た。彼も貴未と同じ様な顔をしている。いつのまにか瑛琳と千羅の姿もあった。
「なんだよ、これ。」
やりきれない思いが唯一言葉にできた、それを貴未は吐き出す。カルサは手紙を受け取り、そのまま千羅に渡した。
千羅は手紙を読み始める。瑛琳も横に並び読み始めた。この手紙の新しさを貴未は認識する。そんな事を頭の端で理解していても、心中はまだ穏やかでは決してなかった。
カルサは貴未の方を真っすぐ見て、重い口を開いた。
「こちらの報告を簡単に言うと、ナルが死んだ。」
何かを求めるように貴未は顔を少し上げた。カルサは言葉を続ける。
「リュナがいなくなった。レプリカが重傷を負った。」
貴未の目が大きく開く。それでも言葉を挟まないのはカルサの様子がおかしかったからだろう。
少し潤んだ瞳で食い縛るように顔に力が入っている。大きく肩を揺らし深呼吸をした。