光の風 〈回想篇〉前編-4
「城の壁も応急処置だけで、今は治療を優先させている。貴未も一度ゆっくり休んでくれ。」
「ああ、王様に報告したらそうするよ。」
サルスに手を振り、貴未はおそらくカルサがいるであろう謁見室に向かった。奥に向かうにつれて人気は薄れ、誰の気配もしなくなった。
「マチェリラ、いる?」
「おかえり、貴未。」
姿は見せず、声だけでマチェリラは貴未に応えた。先日の襲撃の中、彼女も貴未と共に戦ったがその姿をさらさずにいた。遠くから人知れず援護をするという形で彼女なりの戦い方をした。
まだ、サルスはおろかリュナにさえ彼女の存在は知られていない。
「無事だった?怪我はない?」
「大丈夫、さすがに疲れてるけどね。マチェリラは?」
「心配いらないわ。それより外の様子はどう?もう魔物の気配は感じないけど。」
うん、そう呟くと貴未は黙り込んでしまった。マチェリラは静かに彼の言葉を待つ。
「カルサの所にいこう。多分それが一番早い。」
「あの子なら大聖堂にいるはずよ。」
ありがとう、そう答えて貴未は宙に手を差し伸べた。やわらかく暖かいものが手に触れた瞬間、二人は大聖堂に飛んだ。
手紙を元のように折りたたみ、カルサは懐にそれをしまった。送り主はもう応えてはくれない、カルサはただ彼女を見ているしかなかった。
まるで寄り添うように光の精霊・桂がカルサの肩にとまる。自然とお互いが擦り寄った。
「カルサ。」
祭壇の下から声がかかる。振り返ると貴未とマチェリラがそこにいた。
「貴未!」
貴未の姿を見るとすぐに階段を駈け下りる。そのままの勢いでカルサは貴未を抱きしめた。貴未は驚きながらもそれに応える。
「すまない!無事で良かった!」
声にならない声でカルサは貴未に投げかける。
「悪い、勝手に動いて。お前も…なんとか無事で良かったよ。」
二人はゆっくりと体を離し、お互いの姿をよく確認した。平気なふりならいくらでもできる。でも立って歩ける状態であることは分かった。
「外を見てきた。それに話したい事がある、千羅と瑛琳を呼んでくれないか?」
カルサは頷く。
「話なら…沢山ある。」
歯切れの悪い様子に貴未は初めてカルサから視野を広げた。さっきまでカルサがいた祭壇の上に誰かが横になっている。