光の風 〈回想篇〉前編-10
「貴未、今あいつらが生きている確率は?」
カルサの視線がまっすぐ貴未に向けられる。貴未はそらす事無く受け入れた。
「五分だ。」
カルサの目が少し大きく開いた。寂しげな表情を浮かべ、震える深呼吸をする。吐く息はため息に近かった。
「そうか。」
カルサの小さな呟きは強く響く。落胆の色を見せるカルサを見逃せない千羅と瑛琳は顔を合わせ頷いた。
「皇子、私が探して参ります。」
「いや。」
千羅の申し出にカルサは直ぐ様断りを入れた。あまりの早さに一同は動きを止める。
「まずは現状把握が先だ。」
誰も口を出さずにカルサを見ていた。押し殺しているようでも滲み出ている焦りと不安と憤り、それが痛い程に伝わってくる。
「もうこれ以上、後手に回りたくない。とにかく今は情報を得なければ。」
苦々しい表情、それは皆同じ思いだった。もう誰も何も失いたくはない。
最初にカルサの思いに沿ったのは貴未だった。
「城外の集落を回ってきたけど、どこも城よりひどい被害はない。」
貴未の言葉にカルサは頷く。
「魔物が何体か侵入して住居や施設、畑を荒らしたみたいだけど常駐の兵士が退治したらしい。」
残念ながら殉職した者も数名いるが、民に極端な被害はない。以前の魔物侵入事件より学び、サルス扮するカルサが定めた対魔物・撃退準備が役に立ったと貴未は続けた。
聖水、聖石、魔物が苦手とされている物で作られた武器をサルスは各集落に配布していた。
「さすがですね。」
千羅が微笑む。誇らしげな気分がカルサの中に沸き上がってきた。しかしそれも束の間、すぐに苦い表情へと変わってしまう。その理由を皆が分かっていた。
「城外でひどい被害はない。皆、兵士達が命懸けで守ってくれたんだ。カルサ。」
貴未の言葉にカルサは頷く。彼の言おうとしている事は分かっていた。
「集落を回る。貴未、後で案内をしてくれ。」
カルサの言葉に貴未は頷いた。
「それと、聖の結界。」
再び貴未に視線が集まる。
「あいつ、結界石を使わずに自分の力だけでも結界を張っていたらしい。」
「聖が?」
「いまでも微かに残ってる。」
カルサの中に疑問符が浮かぶ。それが何か貴未には分かっていた。