君に捧げるアイシテル-1
キーンコーンカーンコーン
私は今悩んでいる。
「海、次は古典だよ」
「げっ」
私は『古典』が苦手だ。
「早く謙ちゃん呼んできなよ」
「いーやーだー」
「いいじゃん、『ご指名』なんだしっ」
「そうそう、海は謙ちゃんのモノなんだから」
「うぅー…」
『古典』といっても、教科のことではない。
「──謙介先生、授業…」
「やっと来たな。ほら、もっとこっちに来ないと。聞こえない」
「はぁ…」
私が苦手なのは、目の前にいるこの古典の教師。
「じゃあ、もう1回俺の名前を呼んで」
「謙介センセー…」
「うん。…充電完了」
彼は、俗に言う『声フェチ』で、私の『声』をひどく愛しているのだ。
この佐藤謙介に会ったのは4月の始業式。彼は新任の教師としてこの学校にやってきた。
背が高く、目鼻立ちがはっきりした彼に私は一目で落ちた。
まさかその次の日、そんな小さな恋心はもろくも崩れ去るとは。
彼は古典の授業で1人ずつ和歌の本読みをさせた。簡単な和歌だったため困惑することはなく、スラスラと読めた。
しかし、私が読み終えると、教卓に立っていた彼は驚いた様子で私に近付いた。「間違えたのかな」そう思った。