君に捧げるアイシテル-3
『声』のことになると、先生は気持ち悪い。
人の声にいちいち点数をつけて、そして必ず最後には必ず「海の声は100点満点」と言う。
気持ち悪い。
「海、もっと喋ってよ。喋ってくんないと授業で何回も指すぞ」
「職権乱用ですか」
「これも愛のためさ。愛に障害はつきものだからね」
「そういう発言、やめて下さい」
ああ、気持ち悪い。
でも1番気持ち悪いのは、私の『声』以外は私を愛することはない先生を未だに想っている自分。
──その日、いつものように先生を呼びに行く。
先生は大方国語科資料室にいるため、階段を下ってそこに向かった。
「失礼します」
資料室の戸を開けると、そこには先生の他に2人、女子生徒がいた。スリッパの色で2年生だと分かる。
やべっ、先輩じゃん。
先輩である2年生の邪魔をしたくなくて、出直そうと引き戻ろうとする。
ところが、先生はそんな私の気遣いを無視して話し掛けてきたのだ。
「おー、海。今行くからなー」
すると、彼女たちは案の定残念そうな顔をする。
「えー。もっと先生と喋りたかったー」
「ごめんな、あの子は俺の『特別』だから」
「あたしらは先生の『特別』じゃないの?」
「うーん、特別には特別だけど、俺はあの子がいないと生きていけないから」
だから、ゴメンね?
そう彼女たちに謝る先生を見て、何だか私まで申し訳ない気持ちになってしまった。
「──先生、何であんなこと言ったんですか」
教室に向かう途中に尋ねてみる。
あんなことを言ったら誤解されるかもしれないのに。
「あぁ、だって、本当のことだもん。俺は海がいないと生きていけないよ」
分かってる。
これは私のことじゃない。
先生が言っているのは、あくまで私の『声』のこと。
これ以上、好きになっても辛いだけ。