僕らの日々は。〜東の海の眠れない俺ら〜-1
「夏は、海だと思うんだ」
狭がそんな事を言い出したのは、夏休み直前、終業式の日の事だった。
「……はぁ?何だよいきなり。あぁ、この暑さで頭がやられ……いや、それは無いか。元からだし」
「お前ソレひどくね…?」
「ま、冗談は置いといて。いきなりどうしたんだ?」
挨拶がわりにイジメを挟んで安良が尋ねる。
「ほら、今日……暑いだろ?」
「まぁな」
「で、明日から夏休み……だろ?」
「そうだな」
「つまり海……だろ?」
「いや、その結論には納得しかねるが」
「安良テメェ!じゃあ一体お前にとって何が夏だと言うんだ!」
狭、キレた。
「夏休みは涼しい部屋でテレビが見たい」
「何ぃ!?インドア派だなんて、貴様それでも元野球部か!?」
「夏はテレビで甲子園を見るのが恒例だ」
「や、野球部っぽい!」
アホな会話である。
いや、見てて楽しいのは事実なんだけども。
でもまぁこのままでは話がズレる一方なので、戻してやる事にする。
「でもさ、狭。この辺って海無いじゃんか」
「おぉ沖春、いたのか」
「いたよ。というかお前より前からここにいるよ。……で、どうするのさ?」
「ふっ、そのへんは抜かりは無いぜ!」
言いつつ狭は鞄から何枚か紙を取り出した。
「近隣の海水浴場とそこまでの交通手段をリストアップしてみたんだ」
「用意いいな……」
「昨日思い立ってからすぐに集めたからな!」
「そんなに行きたかったのか……」
「行こうぜ海!」
目をキラキラさせている。
海ねぇ…………。
「そもそも何で夏に海に行くんだろうね?意図がよく掴めないんだよなぁ」
「あん?何だ沖春。そんなもん泳ぎに行くに決まってんだろ?」
「プールでいいじゃん」
「ほら、波があるし」
「波が出るプールもあるよ?」
「金かからないし」
「僕達みたいに海が遠い人は逆に交通費がかかるって」
「………………」
……あ、ヤバい。
狭が涙目になってる。
イジメすぎたか。
「海には雰囲気を楽しみに行くんだろーよ。プールに行くのと海に行くのとでは思い出が違うだろ」
「そ、それだ!さすが安良だ!分かってるぅ!」
「俺は行かないけどな」
「何故にッ!?」
「だってダルいし…」
「テメェ、夏休みのお出かけ全てに対する挑戦状だぞソレは!」
再び狭、キレた。