僕らの日々は。〜東の海の眠れない俺ら〜-12
「眠れないんだが」
「奇遇だな。俺もだ」
「そんなときはアレだ」
「何だよ」
「羊を数えるんだ」
「ベタだな」
「だが定番こそが最強だ」
「……何だそのポリシー。ま、やってみるか」
「羊が一匹、羊が二匹……」
「うるせぇ。声に出すな」
……ちなみに、
「………んぅ、……」
春風はぐっすり寝ていた。
――30分後。
「……なぁ、安良」
「……なんだ、狭」
「今何匹だ」
「今ちょうど915匹目だ。お前は?」
「今、1912匹目だ」
「お前の羊、速くね!?」
「あぁ……数えにくくて困ってる」
「そうか…、大変だな」
「まったくだ。……あ、やべ。一匹逃げた」
「お前の羊は逃げるのか!?」
二人が羊を数えている間、
「……うーん、もう食べられないよ…。そんなに海藻ばっかりは無茶だ……」
そんな寝言をつぶやきながら、春風はすやすや寝ていた。
――さらに、二時間後。
現在時刻、午前3時30分。
「……なぁ、安良」
「……なんだ、狭」
「今どんな感じだ?」
「もうすぐ6000匹だ。お前は?」
「10685匹目なんだけど、さっき町に500匹出荷したから……10185匹だな」
「牧場経営!?」
「羊毛が割と高く売れるんだ」
「お前の想像の世界レベル高いな!」
そのとき春風は、
「……だから、ダルメシアンとダルタニアンは似て非なるモノなんだよ、一葉………」
そんな寝言をつぶやきながら、ぐっすり寝ていた。
――で。
「……ふぁ、よく寝たぁ」
目覚ましで目が覚めた。
朝の光が部屋に差し込み、気持ちいい明るさだ。
「……あれ?安良、狭、もう起きてたのか……ってうわ!なんだその顔!!」
隣を見ると、安良と狭が既に体を起こしていた。
……目の下にクマが出来てひどい有様だったが。
「……いや、実は寝てない」
「羊を数えたら止まらなくなったんだ……」
「はい?……羊?」
「あれだな。迷信だな、羊を数えたら眠くなるってのは……」
「ああ、俺は……この一晩で牧場経営界の神になったぜ……」
そう言った狭の顔は寝不足で凄い事になっていたが……、どこか神々しく見えたのだった。
ちなみに、最終的に狭の脳内では、増えまくった羊達により牧場が支配されるという『猿の〇星』みたいな展開になっていたとかいないとか。